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思い出と試練の地、ハンガロリンク。
ハミルトンとライコネン、2人の克己。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/08/10 08:01
セレモニーで喜びをあらわにするライコネン(左)と、ハミルトン(右)。ともに王者ベッテルを追う位置に付けており、後半戦のデッドヒートが予想される。
燃費危機に陥ったライコネン陣営の冷静な対応。
「トラブルではないけれど、レースで最高の結果を得るため、われわれはレースマシンに必要最低限の燃料しか搭載しない。しかし、ハンガロリンクの長丁場のレースでは前半と後半で路面のグリップレベルが変わるため、マシンバランスが大きく変化する。そのため、ドライバーは停止以外の目的でブレーキを多用して、マシンを上手にコントロールしながら走るんだ」
しかし、アクセルを踏みながらブレーキを踏むということは燃料をそれだけ消費する。したがって、燃費が厳しくなる。6番手から上位に食い込むためペースアップしていたライコネンのアグレッシブなドライビングによって、レース中盤からライコネンのマシンは燃費的に厳しい状況に陥っていた。そこでスレードは次のような指示を出す。
「燃費が厳しくなってきたから、9コーナーと11コーナーでブレーキとスロットルペダルを同時に踏むのはやめるようにドライビングを変えてほしい」
レース中のセッティング変更で勝ち取った価値ある2位。
レース中、ライコネンが気をつけなければならなかったのは燃費だけではない。KERS(運動エネルギー回生システム)も十分な状態ではなかった。
「ブレーキングが変わって、得られる回生エネルギーの量が変わったからね。KERSのことだけを考えれば、対処はそんなに難しくはないが、大切なことはいかにペースを落とさずに、搭載している燃料の範囲内で走るか。そのために、われわれはレース中、何度もKERSの使用量、ブレーキングタイミングなどを細かくキミに指示していた。例えば、ファイナルラップでは『KERSを10%セーブしてくれ』とかね」(スレード)
果たして、ライコネンはスレードからの要求に見事に応え、セバスチャン・ベッテルを抑えて、2位でフィニッシュ。チェッカーフラッグを受けると、ピットレーン出口にマシンを止めた。まさにギリギリの状態だったのである。
「優勝はできなかったけど、この2位は優勝にも値するベストリザルト!!」
そう言って、スレードはウイニングランを走れずに帰ってきたライコネンを讃えていた。