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思い出と試練の地、ハンガロリンク。
ハミルトンとライコネン、2人の克己。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/08/10 08:01
セレモニーで喜びをあらわにするライコネン(左)と、ハミルトン(右)。ともに王者ベッテルを追う位置に付けており、後半戦のデッドヒートが予想される。
恋人とも別れ、厳しい時期を過ごしたハミルトン。
それから5年後の2012年。そのマクラーレンとの決別を決意したのも、ハンガリーGPだった。そして、今年メルセデスAMG移籍後、初優勝もこの地で飾った。
これでハンガリーGPで4勝目を挙げたハミルトンは、あこがれのアイルトン・セナのハンガリーGP通算3勝を抜き、最多勝利者であるミハエル・シューマッハに並んだ。また、今回の勝利でハミルトンはデビューからの連続優勝記録も7年連続に伸ばし、1950年代に5度王者に輝いたファン・マヌエル・ファンジオ(アルゼンチン)の記録に並んだ。
ハミルトンにとって、今回の勝利が大きな意味を持つものだったことは、レース後、地元イギリスのテレビ局の質問に、珍しく感情を表に出したことが物語っている。
「レース中、僕の思いはずっとあの人にあった。今日の勝利は彼女に捧げたい」
彼女とは、5年間交際し、今年になって破局していたニコール・シャージンガーである。自分を育ててくれたチームを去り、愛情を育んできた恋人と別れたハミルトンにとって、この数カ月間は「人生でもっとも厳しい時期だった」という。
孤独の中で自分自身との戦いに勝ったハミルトンは言った。「メルセデスAMGの一員になったことを誇りに思う」。
たえず予想以上の結果を挙げ続けるライコネンの安定感。
そのハミルトンがハンガリーGPで挙げた通算4勝目のレースで、2位に食らいついていたのが、ライコネンである。しかも、予選から大きく順位を上げての2位表彰台だった。今年のハンガリーGPも予選は6番手。抜きどころがないハンガロリンクでは、厳しい戦いが予想された。ライコネンのレースエンジニアのマーク・スレードですら、レース前は「良くて4位」と語っていた。
ところが、ライコネンはこの予想を大きく覆す走りを披露する。しかも、レース中、ライコネンのマシンは決して万全の状態ではなかったとスレードは打ち明けた。