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DREAMでの“完勝”では物足りない!
石井慧に日本格闘技界が望むこと。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph bySusumu Nagao

posted2010/09/28 10:30

DREAMでの“完勝”では物足りない!石井慧に日本格闘技界が望むこと。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

決定打はなかったものの、試合巧者であった石井(写真上)に対しベテランのミノワマンは防戦一方だった

トライ&エラーが許されない場所での“ルーキー”は論外。

 石井自身、会場のインタビュースペースで「課題の残る試合になりました」というコメントを残している。しかし彼の言葉からは、MMAファイターとして少しずつ成長しようという意思もうかがえる。

「足関節技をかけられたことが(経験値として)自信になりました。ノーモーションのパンチは何回かうまくできていたので、それをもうちょっと磨いていきたい。横四方の体勢からは、両手を封じ込める、(UFC王者の)ブロック・レスナーがやっているようなネルソンとか、ああいうのを狙ってたんですけど。それも練習を続けなきゃいけないと思います」

 ビッグマウスのイメージに反し、“プロMMAファイター・石井慧”の実像は、やはりルーキーなのである。試合の中で一つ一つの技を確認し、それを克明に記憶している。技をかけられること自体も、自信につながる。石井にとって、強くなることとはトライ&エラーを繰り返すことなのだ。記者会見でのコメントは、そんな真摯な姿勢を隠すための、照れからくる“ネタ”だと言ってもいい。

なぜ石井はUFCの舞台に立たず日本のリングを選んだのか?

 昨年大晦日のデビュー戦以来、彼は海外でエキシビションを含め3試合を行なっている。いずれもローカルな大会で、相手も無名だ。当然、ファイトマネーも高くない。そういう試合に出る理由は、一つしかない。経験を積むためである。

 ただし、日本ではそれが許されないということだ。

 プロデビュー前、UFCとの契約が取り沙汰された際に、UFCのダナ・ホワイト社長は「石井には『TUF(THE ULTIMATE FIGHTER)』に出てほしい」と語っている。『TUF』とは若手選手が参加する選手育成リアリティ・ショー。そこでなら“注目度の高さ”と“経験を積むこと”の両立ができていたはずだ。

 だが、石井が主戦場に選んだのは日本のリングだった。そうである以上、彼は自力でジレンマを解消するしかない。高額なファイトマネーとともに注目度の高い場面が用意され、“着実な成長”では誰も満足してくれないリングで、勝利以外の“結果”も出さなければいけないのである。

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