オリンピックへの道BACK NUMBER
女子柔道界の2大スターが引退。
塚田真希と谷本歩実の今後は?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2010/09/29 10:30
78キロ超級で銅メダルを獲得し、無差別級の出場を直前で取り消した塚田真希。「気力がなかった。どんなに仕上がりが良くても、気持ちひとつでチャンスを潰すとわかった」とコメント
先日行なわれた柔道の世界選手権は、日本が史上最多のメダルを獲得し、幕を閉じた。そのかたわらで、78kg超級の塚田真希、そして63kg級の谷本歩実が第一線から退くと発表した。
塚田は2004年のアテネ五輪で金メダルを獲得し、'08年の北京では銀メダル。北京での決勝の一番は、敗れたとはいえ、名勝負だった。'05、'07年の世界選手権を制し、ゆるぎない大本命と言われたトウブン(中国)を相手に塚田はリードを奪う。奥襟をしつように狙い、前に出て圧力をかけ続ける姿勢が功を奏した。「打倒トウブン」を誓い、徹底して練りあげてきた対策だった。だが残り8秒。塚田の体が浮いた。わずかな隙を突かれ、一本負けを喫した。
「全力を出し切りたいと思っていて、出し切れました。だからこの結果は実力です」
敗れたあと、流れる涙をタオルでぬぐいながら、敗北を毅然と受け止めた。試合に見えた執念と気迫、結果を受け止める潔さと誠実さ。塚田の柔道人生を見たようだった。
アテネ、北京で連覇。しかもすべて一本勝ち。オリンピックで2大会連続オール一本勝ちは、ほかにいない。豪快な立ち技を中心に、まさに日本の目指す、一本を取る柔道を体現したのが谷本だった。
だが、決してたやすく2つの金メダルを手に入れたわけではない。アテネ五輪後、故障に苦しめられたこともあった。世界選手権で優勝できず、「自分の柔道の限界なのか」と思い悩んだこともあったという。
それでも、「あくまで自身のスタイルを」と貫き通した結果が、再びの世界一だった。
悔いなき柔道人生を全うした2人が引退を決意した瞬間。
今回の世界選手権で塚田は、初日に78kg超級に出場し銅メダルにとどまると、最終日の無差別級出場をとりやめた。
「もう思い残すことはありません」
塚田はそう語った。
「(次のオリンピックへの)覚悟が決まらずにいた」谷本は、8月に入り、今までにない心持を抱いたと言う。
「達成感があふれてきました」