濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
DREAMでの“完勝”では物足りない!
石井慧に日本格闘技界が望むこと。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2010/09/28 10:30
決定打はなかったものの、試合巧者であった石井(写真上)に対しベテランのミノワマンは防戦一方だった
形だけを見れば、石井慧の完勝だった。
9月25日、日本ガイシホールで開催された『DREAM.16』。昨年大晦日のデビュー戦以来、日本では2度目の試合を行なった石井は、ミノワマンと対戦し判定3-0で勝利を収めた。
相手に主導権を握られる場面は皆無だった。一度だけ足関節を取られかけたが、それもすぐに脱出している。あとの時間はひたすら石井が攻めた。パンチから組みつき、大外刈りや大内刈りといった柔道技でテイクダウン。グラウンドでは相手の動きに合わせてパスガード、バックと見事なコントロールを見せている。プロ4戦目のルーキーとしては、充分すぎるほどの内容だった。
ただし、周囲はそうは見てくれない。ファンにとって、石井は“プロ4戦目のルーキー”ではなく“オリンピックで金メダルを獲得した超大物”なのだ。MMAと柔道が別物だということは分かっていても、その身体能力や格闘センスにはどうしても過大な期待を抱いてしまう。
主催者側からの期待も、当然ながら大きい。北京五輪で優勝し、その後もビッグマウスぶりや電撃的なプロ転向で話題を呼んだ石井の存在は“世間との勝負”において強い武器になるからだ。今回のDREAM参戦は、SRCが優先交渉権を放棄したことによって実現した。DREAMサイドは、一度はオファーを断られながらも粘り強く交渉。試合が正式に発表されたのは、大会のわずか3日前だった。
そうまでして主催者側が石井にこだわったのは、この大会がゴールデンタイムに全国中継される重要なものだったからだ。深夜の放送であれば、石井との交渉は途中で打ち切られ「では大晦日に」となっていたのではないか。
投げと抑え込みまではよかったが……。
そういう存在である以上、石井には“見出しになる勝ち方”、すなわち一本かKOでの勝利が求められたのだ。スポーツ紙のデスクは“激勝”“秒殺”といった言葉を用意して石井の試合結果が送られてくるのを待っていたはずである。
実際、石井も一本、KOを狙ってはいた。スタンドではパンチを強振し、グラウンドでは腕十字を狙う。ただし、パンチは粗すぎ、関節技は予備動作が大きく、遅かったためにディフェンスされてしまったのである。柔道の二大要素である投げと抑え込みを“MMA仕様”にするところまではできていたが、フィニッシュ力に課題が残る。そういう内容だった。ただし投げと抑え込みも、石井107kg、ミノワマン88kgという体格差があったからできたのではないかという見方もできる。