プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“ルール違反”統一球に自身の署名。
加藤良三コミッショナーの責任を問う。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS /AFLO
posted2013/06/23 08:01
結局釈明に終始するだけで真相不明だった、記者会見での加藤コミッショナー(右)と下田事務局長(左)。昨年夏のコミッショナー再選でのゴタゴタを考えると、想定された不祥事だったのかもしれない。
反発係数の下限を12球団、選手会の同意を得ずに改訂。
ところが2011年から導入された統一球はこの規定を下回る反発係数のボールがかなり混在していて、そのボールで試合が行なわれていた。しかもNPBはその事実を把握しながら黙認し、そればかりか、契約時点で“ルール外”のボールを許容していたという驚きの事実があるのだ。
今回の問題発覚後のNPBの会見で、ボールの反発係数に関して「下ぶれ」という言葉を耳にした読者も少なくないかもしれない。
要はある基準値に合わせてボールを作った際に、製造上で出てくる誤差のことで、基準値を下回る誤差のことを「下ぶれ」と読んでいるわけである。
'11年に統一球が導入されたとき、NPBはボール製造業者をミズノに統一して、反発係数の基準値をアグリーメントの下限に合わせて0.4134と決めている。
そもそもそこに問題があったと言わざるをえない。ギリギリの下限に基準を合わせれば「下ぶれ」で規定以下のボールが出てきてしまうことは予想されることだった。当然、ミズノからはその点の指摘があったため、NPBが新たに許容範囲として0.4034から0.4234の範囲を定めて、これを契約書に明記。その契約で統一球を製造していたわけである。
すでにこの時点でNPBはアグリーメントで定められた0.4134という下限数字を下回る“ルール外”のボールが出てくることを把握し、球団や選手に公表することなく独断で認めてしまっているというわけだ。
「下ぶれ」からも外れた球を使わせ続けたNPBの不義。
さらに言うならば製造上の「下ぶれ」としてそういうボールが作られることは許容したとしても、それを試合球から除けば問題はなかったが、それを試合で使い続けてしまった。すでに導入初年度の'11年からテストでは“ルール外”のボールがかなり出ていることは把握していたにも関わらず放置し続けたのだ。
この事実はやはり重い過失と言うしかない。
アグリーメントでボールの反発係数に0.4134から0.4374と幅を持たせているのは、もちろんこうした製造上の誤差を配慮した結果でもある。そこからさらに「下ぶれ」で許容範囲を広げてしまったのでは、アグリーメントの数字に意味はなくなる。
逆にNPB自らがこんなに簡単にアグリーメントを反古にするとなれば、例えば延長12回という規定も何の意味も持たなくなってしまう。極端な話をすれば「今日は試合時間も早いし、テレビの中継枠にも余裕があるから13回までやろうか」と言っているのと、同じようなものなのである。