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どんな逆境でも諦めたことは無い!!
小林可夢偉の「絶対勝つ」哲学とは。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2010/09/09 10:30
「かなりの高速サーキットでハードブレーキングも多い。僕たちのマシンには厳しいと思うけど、大好きだよ」とモンツァ・サーキットにかける思いを語った可夢偉
かつて東京大学の、ある運動サークルの取材をしたことがある。
当時、彼らは関東でも優勝争いの常連校だったため、高校時代に活躍していた選手が集っているのかと思いきや、そのほとんどが初心者だった。なぜ強いのかと問うと「受験で負けなかったから、スポーツでも負けるわけがない。だから、勝つための練習をしているだけです」と返ってきた。勝てるかどうかなんていう迷いがない。練習内容を聞くと、一般的な練習メニューとは異なって、とにかく勝ちにこだわったメニューがズラリと盛り込まれていた。
今シーズンの小林可夢偉の取材をしていると、ふと彼らのことを思い出す。彼ら同様、可夢偉にも戦いに際してまったく迷いがないのである。その思い切りの良さがしっかり出たレースといえば、最近だとベルギーGPの8位入賞はそう言えるだろう。そして、可夢偉の最も良い所が出たレースこそ、9位入賞となったハンガリーGPだった。
ハンガリーGPは自己ワーストグリッドからのスタートに。
予選18位に終わり、さらに5番手降格のペナルティを受けて23番手からのスタートとなったハンガリーGPでの可夢偉。
サーキットであるハンガロリンクは“ガードレールがないモナコ”と称され、コース上でのオーバーテイクはほとんど不可能である。だれもがレースでの可夢偉の上位進出は無理だろうと予想し、予選を終えた直後の会見で可夢偉を囲んだメディアも、珍しく日曜日のレースに向けての抱負を尋ねず仕舞い。翌日のニュースには「可夢偉、自己ワーストグリッドからのスタート」という記事が数行載った程度だった。
10位入賞という“ミラクル”のためにすべきことは何か?
ところが、この状況にあって、希望を捨てていなかった男がいたのである。それが可夢偉だった。可夢偉は自身のホームページにレースに向けての意気込みを次のように綴っていた。
「明日は、これ以上悪くなる事は無いので普通にミナクル起こしてやるよ!!笑」(原文ママ)
このミラクルとは、スバリ10位入賞。「12位とか13位じゃ、意味がない」(可夢偉)と、ハードルを高く上げることが可夢偉の強さの一因でもある。目標を高めに設定することで甘えを断絶し、無の境地に自らを導く。考えることは、ただひとつ。なぜ、予選で失敗したかではなく、翌日のレースで10位にポジションを上げるには、何をすべきかである。そして、それを可能にするために、最大かつ最初の難関となるスタートで少しでも多くのマシンをオーバーテイクすることに集中する。