F1ピットストップBACK NUMBER
どんな逆境でも諦めたことは無い!!
小林可夢偉の「絶対勝つ」哲学とは。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2010/09/09 10:30
「かなりの高速サーキットでハードブレーキングも多い。僕たちのマシンには厳しいと思うけど、大好きだよ」とモンツァ・サーキットにかける思いを語った可夢偉
危険を承知で1コーナーに飛び込みジャンプアップ!!
24台が一斉にスタートを切ってポジションを争うスタート直後のコーナーでは、事前の予想とは異なる状況に遭遇することは少なくない。スタートして一気に3台を抜き去り、1コーナーの立ち上がりでさらに2台をかわした可夢偉に訪れた2コーナーでの状況が、まさにこの瞬間だった。鋭角な1コーナーを曲がって、すぐに現れるヘアピン状のこの2コーナー。過去、スタート直後に幾度も波乱を起こしてきた難所である。
「でも、迷っていたら抜けないんですよ」と可夢偉は言う。「いくら迷っても、抜けへんものは抜けない。だったら、思い切って抜きにかかったほうがいい」というのが、彼のオーバーテイク哲学である。
2コーナーへの進入で前方イン側にトゥルーリ(ロータス)がいて、アウト側にアルグエルスアリ(トロ・ロッソ)がいて、可夢偉には行き場がなかった。ところが、次の瞬間、アウト側のアルグエルスアリがわずかに膨らみ、可夢偉は迷わず2台の間に飛び込んだのである。
「2台の間に入るというのは、すごく危険なんです。イン側のクルマが少し膨らんでも、アウト側のクルマがかぶせてきても、被害を受けるのは真ん中のクルマやから。でも、あのときは23番手からスタートして、ポイントを取るためにはスタート直後のポジション取りで多少リスキーにならなければならなかった」
迷うことなく入ってきた可夢偉に驚いたのか、アウト側のアルグエルスアリは引き、イン側のトゥルーリもアクセルを少し戻してコーナー脱出時に置いて行かれた。スタートからわずか2つのコーナーで7台抜きを成功させた瞬間だった。
「引くのも行くのも、迷っていたらダメ。人生もおんなじ」
クラッシュして結果は出せなかったものの、可夢偉はカナダGPでもスタート直後の1周目に8台抜きを演じていた。「スタート前にはいろいろとシミュレートするんやけど、いざスタートしたら直感です。引くのも行くのも、迷っていたらダメ。それは人生もおんなじやと思います」(可夢偉)
次はどんなスタートダッシュを魅せてくれるのか。そして、どんな筋書きのないレースを演じてくれるのか。そして、その先にどんな夢を描いているのか。
シーズン途中ながら、早くもチームから来年のシート確保を発表されている小林可夢偉。23歳でF1ドライバーになった男は今秋、24歳を迎える。