ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER

道に迷い、ヒルに襲われるも……、
「トレイルが日常、街が非日常」に。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/06/14 12:45

道に迷い、ヒルに襲われるも……、「トレイルが日常、街が非日常」に。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

トレイル上にある「マクドナルド」を示す看板を前に興奮する井手くん。

いつしかトレイルが日常、街が非日常に……。

 翌日は休息日とした。

 歩いている最中は気持ちがいいのでガツガツ歩いてしまうが、身体は正直で、音を上げていた。寝不足なのか、目は充血し、足にできたマメは腫れ上がっている。

 日本にいる時に立てていた行程計画よりも、2週間も早いペースなのだ。焦る必要はない。進みたい気持ちを落ち着かせて、身体の声に耳を傾ける余裕を持たなくては。

 町に着いてからは実はやることが沢山あり、休息日とはいえ、忙しい。

 シャワーを浴びて1週間分の汚れを落とし、雨具に着替えて、普段の衣類を洗濯。栄養のある食事を摂ることは欠かせないし、営業曜日、時間を確かめつつ郵便局に行って補給物資の受け取りをする。

 スーパーで食糧の買い出し、カメラや携帯電話の充電、Wi-Fiを見つけてメールなど。そしてもちろん、テントの中以上にしっかりと睡眠を取らなければいけない。

 僕は欲張りなので、町の散策も欠かさないので、町にいると、あっという間に1日が過ぎる。

 そんなこんなで町とトレイルとの往復を繰り返していると、トレイルへ向かうとき、不思議な安堵感があることに気がついた。

「やっと落ち着いた生活ができるぞ」

 1カ月ほどで、トレイルが生活のメインの場所となってしまっているのだ。トレイルが日常。街が非日常。不思議な感覚だ。

「道に迷ったら、わかるところまで戻る」は意外に難しい……。

 次のセクションは、これまでで最も辛かった。

 道に迷ってしまったのだ。この区間は絶滅危惧種のカエルを守るための迂回路がいくつかあり、ハイカーたちはいずれかを選択して進む。

 僕は途中で2回も道を間違えた。1回目は運良くハイウェイに出たため、通りがかりのニューヨークから来たバイカーにGPSを借りてことなきを得たが、2回目は本来通る予定のないトレイルを6マイルほど逆走してしまったのだ。

「道に迷ったら、わかるところまで戻る」

 これは、山登りに限らず、セオリーとされていることだろう。しかし、この簡単なことも、実際に当事者になってしまうと、本当に、すごく難しいのだ。

 通るはずの水場がなければ、なるほど、今年は乾燥の為、涸れてしまったのだろうと思い込む。時計で調べた標高と等高線に書かれた標高が一致しなければ、気圧が不安定なのだろうと、自分に言い聞かせる。

 しまいには、進行方向が明らかに進むべき方向と違うのも、磁石が壊れたに違いないと思い込む始末だ。

「ここまで歩いたんだから」

 地図には一本道しかない。この道に違いないんだ。

「ここまで歩いたんだから」

 そこの曲がり道を曲がれば景色が変わるはずだ。

「ここまで歩いたんだから」

 次の曲がり角を曲がれば、いや、この次だ。

【次ページ】 「朝日が昇ったら、来た道を戻ろう」

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