ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
道に迷い、ヒルに襲われるも……、
「トレイルが日常、街が非日常」に。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/06/14 12:45
トレイル上にある「マクドナルド」を示す看板を前に興奮する井手くん。
わーお! ここはヌーディストビーチなのかい。
エンジェルのご好意に甘えまくった翌日、トレイルへ発った。出発日は母の日。僕たちハイカーは、カンパをして花束とメッセージカードをエンジェルに渡した。
いろいろと世話を焼いてくれた彼女は、僕たちの「母」そのものだった。
「母の日」は日本でこそ商業色の強いイベントだが、泣きながら母に電話をする、トム・ウェイツみたいな顔と声のハイカーを見ていると、こちらではすごく重要な日であることがわかる。
ここからのトレイルは、比較的アップダウンが緩く、快適に歩を進めることが出来た。
ハイライトは3日目だった。
途中、ホットスプリングスという、いわゆる温泉が湧いている地点があった。手元の水がほとんどなくなり、フラつきながらたどり着いたその場所は、すでに顔見知りのハイカーと、裸同然の観光客で溢れていた。
これまでも何回か一緒に歩いて来た女の子が裸で湯船に浸かっていたのにはびっくりした。
わーお! ここはヌーディストビーチなのかい。
身体に付着したヒルを見て、「スタンド・バイ・ミーかよ!」。
僕はというと、暑さにすっかり参ってしまい、温泉よりもプールに入りたい気分だったので、一人川の上流へ向かい、洗濯を済ませた後にパンツ一丁で川へドボン!
「これだよ。これが欲しかったんだよ」
サウナ上がりの水風呂みたいな気分で何度も頭を水に沈めた。下流の温泉で見たものを思い出すと、少し頭を冷やす必要がありそうだ。
すっかり気持ちよくなって岩に上がる。しかし次の瞬間、僕は身体に付着したヒルを見て、必要以上に寒い気分になってしまう。
「スタンド・バイ・ミーかよ!」
お約束のツッコミを自分に入れつつ、きちんとパンツの中も確認し、ヒルを落とす。以前、丹沢で出会ったヒルよりは素直に落ちてくれてホッとした。
良くも悪くも暑さを忘れることができた僕は、まだまだのんびりしているハイカーたちを尻目に先へ進んだ。