ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER
道に迷い、ヒルに襲われるも……、
「トレイルが日常、街が非日常」に。
text by
井手裕介Yusuke Ide
photograph byYusuke Ide
posted2013/06/14 12:45
トレイル上にある「マクドナルド」を示す看板を前に興奮する井手くん。
「朝日が昇ったら、来た道を戻ろう」
お腹が空いた僕は、トレイルに座り込み、日本から支援してもらったアルファ米を食べた。心なしか、いつもよりしょっぱいような気がした。
「白米って、こんなに濃厚な味がしたんだ」
またもやセンチな気持ちになりつつ、前のページの地図を広げると、僕は自分がいったいどこに向かっているのかに気が付いた。このまま進むと、スタート地点であるメキシコ国境にたどりついてしまう。お腹が満たされ、落ち着いて地図を見ることができたのだろう。
僕は暮れていく陽の光を頼りに、戻れる場所まで戻り、テントを立てた。景気付けにiPhoneで音楽を聴く。ブルーハーツに中島みゆき。力をもらう。
「朝日が昇ったら、来た道を戻ろう」
こんなにシンプルな前進の仕方って、中々あるものではない。
翌朝、気分を一新して来た道を戻ると、同じように間違えたのかこちらへ向かってくるハイカーがいる。RUM MONKEY(前々回の記事、6ページ目を参照)だ!
「へいへい。どこへ向かっているんだい?」
昨日までの弱気な僕は何処へやら。得意げな顔で道を教える。
「おー! ユースケ! クールだ。パーフェクトだ。ありがとう!」
彼は僕に本気で感謝し、それでいて僕より早く、速く、トレイルを引き返していった。
ほとんど前進出来なかったその日だったが、自分が今歩いている道が確実にカナダにつながっていると思うと、嬉しさと安心感とでいっぱいだった。気のせいか、昨日通った道よりも、優しい風が吹いている気がする。
普段、東京で暮らしている僕たちは、どこへ向かっていけばいいのかを見つけるのに苦労する。そして、進んでいるのか、戻っているのか、遠回りしているのか、しばしばわからなくなる。
僕が今、歩いている道は確実に向かうべき場所へ向かっており、足を一歩前に出すだけで確実にそこへ進んで行く。これは、計り知れない充実感だ。
こんなにシンプルな前進の仕方って、中々あるものではない。