ロングトレイル奮踏記BACK NUMBER

道に迷い、ヒルに襲われるも……、
「トレイルが日常、街が非日常」に。 

text by

井手裕介

井手裕介Yusuke Ide

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photograph byYusuke Ide

posted2013/06/14 12:45

道に迷い、ヒルに襲われるも……、「トレイルが日常、街が非日常」に。<Number Web> photograph by Yusuke Ide

トレイル上にある「マクドナルド」を示す看板を前に興奮する井手くん。

満天の星に抱かれた夜、多くの言葉は野暮だった。

 陽が暮れて来た頃、とても平坦で見晴らしのいい丘についた。先に着いていたロジャーもここでキャンプするというので、僕もそれに倣う。

「俺はここでカウボーイスタイルのキャンプをすることにするぜ。シャシンカはどうする?」

ロジャーと一緒に「カウボーイキャンプ」。

 彼は悪戯っぽい笑顔で、まるで自分の子どもに接するように問いかける。

「カウボーイキャンプ」という、テントを張らずに寝袋だけで野宿する方法を教わる。方法もなにも、ただ寝るだけなのだが。確かに、これに焚き火が加わればジョン・フォードの世界だ。

 西に沈んだ太陽は、しばらく赤い光線を地平線に残す。入れ替わるように顔を出す月の明かりは、ヘッドライトを使おうとする僕を制するかのように明るい。

 ロジャーは僕に星座について教えてくれた。彼の英語すべてを聞き取ることは出来なかったけれど、満天の星に抱かれた夜に、多くの言葉は野暮だった。

 陽が昇ると、明かりで自然に目が覚めた。遠くからは教会の鐘、そしてハイウェイを行く車の音。

 西に沈んだ太陽が、東から昇ってくる。当たり前のことだけれど、僕はえらく感動してしまった。

 ロジャーはそんな僕を横目でみつつ、大きく欠伸をする。地球の上で眠るとは、こういうことなのだろうか。

「絶対に今日マクドナルドに行くの」とポートランドの女の子。

 翌朝、ロジャーは支度を早く済ませて歩き出した。僕は寝袋から半身を出し、ボーっとしながら乾いたベーグルをかじる。

ハイカーの間で有名なマクドナルド。

「今日も、歩こう」

 汚い顔の僕を昇ってきた太陽が照らす。

 風が強く吹き付けるトレイルを行くと、これまでに何度も抜きつ抜かれつしている、ポートランドから来た女の子二人組と会う。Scorn(スコーン)とdoodle(ドゥードル)だ。

 キュートな彼女たちと話す時、僕の英語はいつもより饒舌になる。ほんの少しだけ。

 彼女たちは今日は30マイル近く歩くという。そこまで行くとトレイルは大きなハイウェイと交差するのだ。そして、そのポイントにはマクドナルドがある。ハイカーたちにはお馴染みの峠らしい。

「絶対に今日マクドナルドに行くの」

 赤ら顔の2人の息は荒い。「そんなに急がなくてもマクドナルドはなくならないよ」と笑いつつ、僕も歩を進める。

「彼女たちのペースで今日中にマクドナルドに行けるのなら、僕も行けるんじゃないだろうか」

 自分を抑えるように意識しつつも、前へ出る足は、確実にペースを上げている。だが、風がいよいよ強くなり、トレッキングポールを尾根側に突きたて、体を飛ばされないようにしながら進む。去年、北岳を登っている時、強風に飛ばされた僕を支えてくれた仲間たちは今、東京で何をしているのだろう。

 夕陽は僕をセンチにさせる。

【次ページ】 アメリカ開拓史の大動脈ルート66も今は廃れて……。

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