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阪神の生え抜き助っ人、マートン。
活躍の秘密は“心意気”にあり。 

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2010/07/14 13:20

阪神の生え抜き助っ人、マートン。活躍の秘密は“心意気”にあり。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

「神様のおかげ」

 ヒーローインタビューなどで、マートンは、このフレーズからその日の打撃について話し出すことが多い。

「神様発言」といえば、阪神ファンには忘れたくても忘れられない、伝説の“捨て台詞”がある。

 言うまでもなく、それは'97年の彼。爆発したのはゴールデンウィークのみ。直後に故障し、「神のお告げ」を理由に早々にチームを去った、あのグリーンウェルの発言は、今もなお、忌まわしき過去としてファンの心の奥底に刻まれている。

 阪神は、少なくともここ10年ほど、外国人の野手補強に関しては神から見捨てられていたような気がする。活躍した野手といえば、アリアス、シーツ、そして今季、日本記録を超える勢いで本塁打を量産するブラゼルくらいか。しかし彼らは、国内球団から移籍した選手であり、“生え抜き補強選手”ではない。すでに日本で実績を積んでいる選手であれば活躍して当然という見方もできる。その一方で、“グリーンウェルの呪い”というわけでもないだろうが、フォード、メンチと、近年だけでも米球界から直接獲得した外国人選手はことごとく期待を裏切った。

 だから、いくらメジャーの経験があるマートンとはいえ、そう易々と信じてなるものか。辛口で知られる虎ファンのなかには、そう疑心を抱いていた者も少なくなかっただろう。ましてや、あの赤星憲広の代わりとして期待され入団したのだ。そこそこの活躍――新外国人の及第点で言えば2割8分、20本塁打あたり――程度ではファンは当然、納得はしない。

日本野球をよく知る先輩助っ人シーツが捧げたアドバイス。

 ところが、である。その“呪い”を払拭するかのように、マートンはオープン戦から打ち続け、シーズンに入っても首位打者になるなど、打率3割5分前後をキープ。200本を超えるペースで安打を重ね続け、1年目にしてオールスターに選出された。今や不動の3番打者として、リーグ制覇には欠かせないキーマンと言ってもいいだろう。

 ではなぜ、マートンが来日1年目でこれほどまで日本の野球に適応できているのか? その理由は、主に3つ挙げられる。

 ひとつは、彼に目をつけた男だ。球団は「長年リストアップした成果」と言うが、やはり日本野球を十分に理解し、阪神でも結果を残したシーツが、昨年から駐米スカウトとなったことは大きかった。来日直前の12月、先輩助っ人はマートンに、「自分自身であれ」「修正点を確認してアジャストしろ」「逆方向へのバッティングを心がけろ」と、日本球界で成功するアドバイスを贈った。

 これが2つめの理由に繋がる。もともと勤勉なマートンだが、この訓示を受けて、より日本の投手を研究するようになった。「日本の野球はレベルが高い」と自覚し、多彩な変化球を操る「日本式投球術」に1日でも早く慣れるため、各チームの投手の癖や配球を細かくノートに記し、分析した。その結果、自分にとっていい球がきたら初球からでも積極的に打っていく、という本来の打撃に加え、追い込まれてからはファウルで粘り、3ボールとなれば冷静にきわどいコースの変化球を見極める、といった現在のスタイルが確立された。

【次ページ】 マートンの人間性を物語る、あるファンとのエピソード。

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