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第1回アテネから続く伝統の危機。
レスリング五輪存続へのカギとは。 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2013/02/25 10:30

第1回アテネから続く伝統の危機。レスリング五輪存続へのカギとは。<Number Web> photograph by AFLO

2月20日都内の日本記者クラブで会見し、五輪存続を訴えた吉田沙保里。「夢を持ってがんばっている子どもが夢を絶たれていくと思ったら心が痛い」と思いを語った。

レスリングを排除することは五輪自体の否定につながる。

 例えばその魅力のひとつをあげると……レスリングは用具に頼らない競技だということがある。

 冬季競技の多くは用具を必要とし、夏季競技でも用具を使う競技は少なくない。また試合を行なう施設建設の負担も大きい競技もある。対するレスリングは、誰でも容易に体験することのできる競技だ。この意味は、案外小さくない。

 力と技を1対1で競い合うというシンプルさもまた、レスリングが長い歴史と伝統を築くことができた理由だろう。

 そんな競技を捨て去ろうというのは、歴史を大事に刻んできたからこそ今日に至ったオリンピック自体の否定にもつながりかねない。除外を受けての海外のメディアの報道の大きさも、そうした危惧を物語っているように思える。

 IOCは理念を大切にするという。そうした面は、例えば人種差別に類する発言への処罰などにはうかがえるが、その一方で、視聴率の取れるもの、若者受けしそうな競技を加えたいという思惑を見せるなど、ビジネスを優先する傾向があることも匂わせてきた。オリンピックのあり方を壊しかねないビジネス本位の姿勢に対する批判や不満は、競技を越えて存在する。

 だからこそ、正々堂々と、レスリングという競技の伝統と重みを主張していくべきだと思う。

レスリング復活のために、IOCの要望に応える努力を。

 中核競技から除外されたとはいえ、まだ2020年のオリンピックで実施されないと決まったわけではない。

 5月にロシアで開催されるIOC理事会で、レスリングをはじめ、復活を目指す野球・ソフトボールや、新たな採用候補のスカッシュ、ローラースポーツ、空手など8つの競技がプレゼンテーションを行ない、その場で絞り込まれる(1競技に絞る予定だったが3競技程度を候補として残す案も浮上している)。そして9月のIOC総会で最終的な決定が行なわれる。それまでまだ時間はある。

 改善すべきところは改善を進めること。現在は普及の進んでいないアフリカ、あるいは人気の低下している西ヨーロッパで普及活動に取り組むのもひとつだし、かねてからIOCに勧告を受けてきた参加選手数の抑制にどう取り組もうとしているのかなど、IOCの要望にどう対処するかも示す必要がある。

【次ページ】 普及運動やロビー活動も積極的に取り組む必要がある。

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