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ユトレヒトの“超天然サッカー小僧”。
高木善朗が向き合う2年目の挫折。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO
posted2013/02/22 10:30
元プロ野球選手・高木豊氏の次男の高木善朗。宇佐美貴史や宮市亮ら、いわゆるプラチナ世代の一人で、パスセンスや得点力を認められて東京ヴェルディから18歳でオランダのFCユトレヒトに移籍した。1年目の昨シーズン記録した6アシストはチーム最多だった。
飛行機の搭乗よりも、サッカーの方が大事――。
選手の中にはプライベートでサッカーの試合を見たがらないタイプもいるが、高木は違う。ほぼ毎日、過去の名勝負をむさぼるように見ている。過去のCLの試合を録画しておき、DVDを常備しておくのだ。この取材をした日は、家に帰ってから2004年のCLの試合を見ると言っていた。さらに夜は、国王杯のレアル・マドリー対バルセロナの生中継を見ると……。
昨年の帰国時には、こんなことがあった。
アムステルダムのスキポール空港のカフェに入ると、ちょうど2005年のCL決勝、ACミラン対リバプールがやっていた。リバプールが0対3から追いつき、PK戦で競り勝った伝説の試合である。
高木は目が離せなくなり、試合が終わると搭乗時間を大幅にすぎていた。ゲートにダッシュして何とか間に合ったものの、偶然乗り合わせていた大津祐樹とカレン・ロバート(ともにフェンロでプレー)から「なんでこんなに遅かったの?」と突っ込まれてしまった。
飛行機の搭乗よりも、サッカーの方が大事――。超天然のサッカー小僧だ。
宇佐美とも『お互い頑張ろうよ』みたいな感じでよく電話している。
高木は言う。
「自分は環境的に恵まれていると思う。子供のときは、父親と交流があった風間八宏さんから、ボールの受け方や体の使い方など、常に先のステージのことを教えてもらった。僕らの年代で早くヨーロッパに移籍した選手は、宇佐美(貴史)は先発に定着し始めたけれど、宮市(亮)と僕は出ていない。でも、みんなプライドも高いし、自分ができないとは思ってないのでね。宇佐美とも『お互い頑張ろうよ』みたいな感じでよく電話している。今すぐにでも状況を変えたいと思っています」
高原直泰や長谷部誠など、欧州移籍のパイオニアたちの多くが「10代のときにヨーロッパに来たかった」と口にしていた。高木、宮市は18歳、宇佐美は19歳のときにヨーロッパのクラブに移籍し、まさにそれを実現した世代だ。次なる一歩に、日本サッカーの進化がかかっている。