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地元の逸材はガッチリ押さえる!!
中日ドラフト指名戦略の凄味。 

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小関順二

小関順二Junji Koseki

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2012/12/26 10:31

地元の逸材はガッチリ押さえる!!中日ドラフト指名戦略の凄味。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

中日が今季ドラフトで1位指名した慶大・福谷浩司は理工学部で電子工学を専攻。慶大野球部・江藤監督は「勉強が7、野球が3と言っていた。野球人というより学者」と振り返るほど文武両道を貫いていた。

 DeNAがソフトバンクとの間で3対3の大型トレードを行ない、多村仁志(外野手)を獲得した。'95~'06年までベイスターズに在籍した多村にとっては7年ぶりの古巣への復帰となる。

 多村の出身校はDeNAが本拠を置く横浜スタジアムのお膝元、横浜高校。DeNAには同校出身者が多く、石川雄洋、後藤武敏、筒香嘉智、荒波翔、小池正晃、乙坂智、土屋健二、多村と8人を数える。このうちトレードで獲得したのが後藤、多村、土屋の3人。横浜の球団だから横浜高校の選手を獲る、という考え方は非常に真っ当だが、横浜色を強くするため急遽かき集めたという印象が強いのも確か。

DeNAが意中の地元選手をドラフトで指名できない理由。

 ドラフトに焦点を当てると、首都圏を担当するスカウトが各球団とも多い。たとえば関東大会と九州大会を見ると、そこに参集するスカウトの数は関東大会のほうが多い。つまりDeNAが「横浜に本拠を置く球団だから神奈川の選手を獲る」と息巻いても、他球団のスカウトも黙っていない。

 さらに首都圏のゲームには取材に訪れるマスコミの数が多く、私のようなスポーツライターも首都圏が一番多い。当然、記事になるのは関東の選手が多く、球団フロントがその記事に誘導されて指名することもあるだろう。つまり隠し玉として取って置くことが難しい。横浜の地元路線が不発気味な理由の1つだろう。

 さらにこれが一番大きいと思うのだが、東京、神奈川、埼玉の選手たちにDeNA、巨人、ヤクルト、西武を地元球団と見る視線が薄い(千葉球児にはロッテを地元球団と見る視線があると思う)。選手は地元球団だと思っていないのに、DeNAが横浜に本拠を置くから地元・神奈川の選手を獲ると言っても選手はピンとこない。このへんが、中日が本拠を置く東海勢(とくに愛知、岐阜)や、ソフトバンクが強固な地盤を築いている九州との大きな違いである。

阪神、オリックスの在阪2球団も「地元意識」は薄い。

 関西地区も関東に似ている。

 球児たちに「地元の阪神、オリックス=入りたい球団」という視線が感じられないのだ。'97年に天理、上宮太子、PL学園など有力校を回って取材したとき、一様に関東のチームに対する敵愾心をむき出しにしながら、進学志望先には首都圏の大学名を挙げた。ヤジが強烈だから在阪球団は嫌だという声も聞いた。

 こういう声は、阪神の主力選手に地元球児が少ない、という現象によく反映されている。たとえば高校、大学とも関西出身という選手は、他球団から移籍した久保康友(関大一→松下電器)、藤井彰人(近大付→近大)以外では、岩田稔(大阪桐蔭→関西大)がいるだけだ。エース能見篤史は社会人の大阪ガスからなので地元色の濃度が薄まっている。平安高出身の桧山進次郎も関東の東洋大経由での入団なので濃度が薄い。

 これは野球ファンから絶大な人気を誇る阪神のアキレス腱と言ってもよく、地元球児をいかに涵養するかが、今後の阪神の課題の1つだろう。

【次ページ】 実力本位で地元東海のアマチュア球児を指名する中日。

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