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阿部慎之助は高校時代、何が違った?
一流が超一流に育つ条件を考える。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/11/06 12:25
日本一となった巨人の主将で4番で捕手。さらに、今シーズンは首位打者と打点王もとった阿部。WBCでの主将も確定しているという。
「阿部より素材のいい選手は何百人といたはずですよ」
中根が続ける。
「人間、持って生まれたものもあるけど、阿部は、考え方ひとつでこんなにも変わるんだ、といういい見本。過去に、阿部より素材のいい選手は何百人といたはずですよ。でも、単にうまくなりたいなと思ってやってるだけのやつと、プロへ行くんだってやってるのと、日に日に差がついていく。阿部は毎日、いい加減帰ってくれと思うぐらい夜遅くまで練習してましたからね」
小さい頃からプロを意識してやるかやらないかは、一種の「プラシーボ効果」のようなものなのではないか。つまり、思い込みの力である。
『その科学が成功を決める』(文藝春秋)という本によると、砂糖を固めた錠剤と薬品で比較実験したところ、〈薬の効き目の60~90パーセントがプラシーボ効果〉だったという。薬本来の効果以上に、患者が効くはずだと信じる心が、病気を治癒の方向へ向かわせるのだ。
阿部にも、同様の効果が働いていたのではないか。
それだけに、ドラフト会議の翌日の新聞で、指名を受けた選手の「信じられない」といった種類の発言を見かけると少々心配になる。
少なくとも、濱田や笠原にそれはない。おそらく彼らは誰よりも自分がプロ野球選手になることを信じていたはずだ。これは「薬」だと信じ切って、日々の練習を積み重ねてきたことだろう。
指名順位はそれぞれ2位と5位だが、2人にはそれだけでは計れない資質を備えている可能性がある。