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宮市亮、ウィガンでの修行は順調か?
“ウィングバック”でさらなる成長を!
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2012/09/24 12:30
第5節のフルアム戦、2点を追う展開で投入された宮市。再三にわたり右サイドを突破したが、クロスの精度を欠き、決定的なチャンスを演出することはできなかった。
最後の詰めが甘くては、本当の意味での貢献は難しい。
無論、ウィングバックとしての守備は求められる。だが、攻守の切り替えが早いプレミアを生き抜く上では、そもそも宮市のような攻撃タレントであっても、前線からのプレスやチェイシングといった守備面での貢献が求められる。アーセナルにしろ、ウィガンにしろ、繋いで攻める姿勢を重視するチームであれば尚更のことだ。幸い、出場機会を与え始めたマルティネスが、「彼は新環境で2倍の努力をしている」と言っていた宮市には、ハードワークの意識も備わっている。
タッチライン沿いを走れるポジションで、指揮官が「本物だ」と目を輝かせる突破力が生きることは、10分間強の担当時間でも明らかだった。鍵を握るのは、ラストパスの精度。フルアム戦では、左足からのスルーパス、右足による弾道の低いクロスが、楽々と相手DFにクリアされている。ペナルティエリア付近までの進撃がどれだけ速くても、最後の詰めが甘くては、本当の意味での貢献は難しい。
アーセナルの先輩格に当たるテオ・ウォルコットなどは、質の高いクロスをタイミング良く供給する能力さえあれば、クラブでも代表でも、とうにレギュラーの座を掴めていたはずだ。また、宮市自身もこだわるゴールを決める上では、昨季後半にレンタル移籍したボルトンで、「左とは感覚が違って難しい」と言って取り組んでいた、右サイドからのカットインを披露する機会を得る。
ウィガンでの修行で「アーセナルの宮市」への下地作りを。
宮市を温かくウィガンに送り出したアーセナルのサポーターたちは、修行から戻るはずの来季、4-2-3-1システムの2列目アウトサイドでのポジション争いを期待していると思われる。左は大物新戦力のルーカス・ポドルスキだが、右は昨季前半にもライバル視された、アレックス・オクスレイド・チェンバレン。19歳のイングランド人ウィンガーは、今季、リーグ戦でも先発が増え始めた。宮市も負けじと、1年間のレンタルでプレミア経験を積み重ねなければならない。
ウィングバックという言葉に対しては、どことなく抵抗感を覚えるファンもいるだろうが、本人にとっては、自慢のドリブル突破や、持ち前のタッチの良さといった、攻撃面での長所を生かしながら、守備の意識も含めて、プレミア一軍選手としての成長を可能にするポジションだ。定位置獲りを狙う価値は十二分にある。当初見込まれた、3トップよりも1列後ろが持ち場では、「新たなウィガンのメッシ」とは呼ばれないかもしれない。だが、それで良い。「アーセナルの宮市」になるための下地を築くために、ウィガンでの修行に出たのだから。