欧州サムライ戦記BACK NUMBER
プレミア開幕3連敗のサウサンプトン。
李忠成と吉田麻也が握る浮沈のカギ。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byPress Association/AFLO
posted2012/09/07 10:31
第3節のマンチェスター・ユナイテッド戦、今季初めてベンチ入りした李忠成だったが、出場することはなくチームは2-3と敗れた。右足骨折が完全に回復し、吉田麻也と共にプレミアのピッチを駆け巡る日が待たれる。
8月30日、吉田麻也のサウサンプトン移籍が決まった。チームには、2部リーグ時代の1月に加入した李忠成もいる。プレミアリーグで初の日本人チームメイト誕生には、母国でも「マイナークラブだからこそ」という声があるかもしれない。
たしかに、サウサンプトンは、2部リーグ2位で上がってきた昇格組だ。一昨季までは3部に落ちていたことも事実。今季は降格の有力候補と見られてもいる。だが、イングランド南岸のクラブの本質は、2005年の前回降格まで27年間もトップリーグの一員であり続けた、由緒あるクラブだと言っておかなければならない。
ファンの目も肥えている。前回のプレミア時代には、イングランド史上でも屈指のテクニシャン、マット・ル・ティシエが攻撃の中心となっていた。現在のプレミアを代表する攻撃タレントとして、トッテナムのギャレス・ベイルがいるが、ベイルが頭角を現したのもサウサンプトンだ。ナイジェル・アドキンス率いる現在のチームも、基本システムこそオーソドックスな4-4-2だが、ボールを支配して攻める、見応えのあるサッカーをする。李にしろ、吉田にしろ、テクニックのある戦力の加入はファンに歓迎された。だが、日本人2名には、プレミアの舞台で「通」のお眼鏡に適うクオリティを披露するというプレッシャーもある。
プレミアにはびこる日本人選手の実力に対する懐疑の目。
加えて、プレミアでの両名は、外部の偏見にも晒される。イングランドの人々は、サッカーの「発展途上国」と認識している日本の選手を、まだまだ懐疑的な目で眺めがちだ。その証拠に、マンチェスター・Uの香川真司に関しても、交渉が難航していたロビン・ファンペルシの移籍が開幕間際に決まると、メディアで「ファンペルシ獲得に確信があれば、香川には手を出さなかったのでは?」と囁かれた。日本人のMFは、近年の国際大会を通じて、その質が認められ始めたはずだった。香川にはブンデスリーガでの実績もあった。それでも、疑問符付きの眼鏡を通して眺められた。李と吉田が、それぞれ、「決定力不足」の日本人FWと、「フィジカル不足」の日本人DFという先入観を持たれていることは想像に難くない。
アドキンスは、今春の右足骨折で約5カ月のブランクがある李について、「焦らずにやってもらっている」と語っている。元フィジカル・トレーナーの指揮官らしい発言だが、「焦る必要はない」との意識もあるに違いない。昨季リーグ戦で27得点を叩き出したリッキー・ランバートは、プレミアでも開幕3試合で2得点と好調だ。前線には、この夏、600万ポンド(約7.5億円)でジェイ・ロドリゲスも購入した。