スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
「お前はベンチ要員」とモウリーニョ。
行き場なきカカの孤独な戦いは続く。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2012/09/06 10:30
サンティアゴ・ベルナベウのベンチに座るカカ(写真右)。かつてのバロンドーラ―は再び輝けるのか。
レアル・マドリーが宿敵バルセロナを2-1で下し、今季1冠目を獲得したスーペルコパ・エスパーニャ第2戦。この試合後、サンティアゴ・ベルナベウのピッチ上でトロフィーと共に写真撮影を行う選手達の中に、カカの姿がなかった。
「今の自分が置かれた状況は、みなと一緒に写真に写れるようなものじゃない」
この日ベンチ外となったカカはスタンドでチームの勝利を見届けた後、そう言って早々にスタジアムを後にしたのだという。その2日後、移籍市場の終了と同時に彼のマドリー残留が決まった。
2009年夏、3年ぶりにマドリーの会長に復帰したフロレンティーノ・ペレスは、同夏に加入したクリスティアーノ・ロナウドと並ぶ「新銀河系軍団」の象徴として、カカを6800万ユーロの移籍金と引き換えにミランから獲得した。
だが昨季までの3シーズンでカカが見せてきたパフォーマンスは、加入時にファンやメディアが抱いた期待にも、クラブが払った破格の移籍金にも値するとは言い難いものだった。
指揮官の言葉を信じて残留した昨年も悪循環から抜け出せず。
加入直後から期待通りの活躍を見せたC・ロナウドとは対照的に、カカは移籍前から抱えていた腰痛の悪化により、移籍初年度は一向にコンディションが上がらぬまま復帰と離脱を繰り返すことになる。雪辱を期した2年目の'10-'11シーズンはさらにひどく、オフのワールドカップに強行出場した代償として開幕前に膝の手術を余儀なくされ、半年以上もリハビリに励むことになった。
3年目の昨季はファンの大多数が放出を求める中、「お前が必要だ」というモウリーニョの言葉を信じて残留を決意。この年はプレシーズンからケガなくしっかり体を作れたことで、一時はメスト・エジルとトップ下の先発を争うほどに調子を上げた。だがメンバーが固定されるようになったシーズン後半はベンチに逆戻りし、最後はたまに出場機会を得てもミスを連発する悪循環から抜け出せぬままにシーズンを終えることになった。