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<忘れられない瞬間を> クリスティアーノ・ロナウド 「再び味わった“挫折”」~2008年6月19日:EURO2008 ドイツvs.ポルトガル~
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byMasashi Hara
posted2012/06/07 06:00
歓喜のドイツと対照的なC・ロナウド。屈強な相手に実力を発揮できず、自身が主役となるはずだった大会を後にした。
ユーロ2008準々決勝、ドイツ対ポルトガル。90分間の激闘を経てドイツが勝利を手にした時、世界中のメディアが「大会の主役」と祭り上げた男は、その期待に応えることなく姿を消した。
ただ茫然と立ち尽くし、それから深緑の芝に拳を付いてうなだれた後で、クリスティアーノ・ロナウドは何かに突き動かされるようにピッチを後にした。チームメイトの誰よりも足早に引き上げたロッカールームで、きっと彼は涙を流していたに違いない。4年前、ユーロ2004決勝でギリシャに敗れたあの日の夜と同じように。
ポルトガルの首都リスボンから1000km離れた海に浮かぶ孤島、マデイラで過ごした少年時代のニックネームは「泣き虫」だった。試合に負ければ悔しさに打ちひしがれて泣きじゃくり、勝っても感極まって涙をこぼす。そしてその豊かな感受性は、少年の心の中にあるたった一つの野望を妄信させるエネルギーに変わった。
「世界一の選手になって、歴史に名を残す」
しかし27歳になった今もまだ、C・ロナウドはその野望の過程にいる。
今から4年前、23歳で迎えたユーロ2008は、C・ロナウドを世界的なヒーローに仕立て上げるための格好の舞台だった。
リオネル・メッシにかっさらわれたヒーローのたすき。
'07-'08シーズン、マンチェスター・ユナイテッドの背番号7は、エースとしてプレミアリーグとチャンピオンズリーグを制するダブルクラウンに貢献。いずれの舞台でも得点王に輝いた彼は、自らを「世界一」に引き上げようとする心地良い気運にその身を委ねていた。「世界一」を意味するFIFA年間最優秀選手賞とバロンドールのダブル受賞も、もはや議論の余地すらない。残す栄冠は一つ。ポルトガル代表の一員として欧州王者のタイトルを手にすれば、完全無欠を自負する彼の欲求は完全に満たされるはずだった。
ところが、エンジのユニフォームを身に纏ったC・ロナウドは、その輝きを放つことなく大会から姿を消した。トルコ、チェコ、スイスと同居したグループリーグではわずか1得点。準々決勝のドイツ戦では徹底的なマークに苦しみ、存在感を消されたまま試合終了の笛を聴く。そしてこの大舞台での敗戦を機に、自らを取り巻く環境は急変した。
彼の肩からヒーローのたすきをかっさらったのは、リオネル・メッシだった。誰にも止められないスピードでピッチを疾走し、バルセロナの黄金時代を力強く牽引した彼を世界は称賛した。メッシは誰よりもしなやかに相手を抜き去り、あどけない表情でチームメイトと喜びを分かち合う。しかし一方のC・ロナウドに、そんなアイドルの資質はない。