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Jクラブは選手の海外移籍で
正当な額を手にしているのか。
~『サッカー選手の正しい売り方』~
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph bySports Graphic Number
posted2012/05/08 06:00
『サッカー選手の正しい売り方 移籍ビジネスで儲ける欧州のクラブ、 儲けられない日本のクラブ』 小澤一郎著 KANZEN 1600円+税
日本人フットボーラーの海外移籍に拍車が掛かっている。
今冬の移籍市場では日本代表FWの2人、李忠成がサンフレッチェ広島からサウサンプトンに、ハーフナー・マイクがヴァンフォーレ甲府からフィテッセに完全移籍。アルビレックス新潟からは酒井高徳が期限付きでシュツットガルトに移籍した。さらにU-23代表のエース格である清武弘嗣も、ニュルンベルクと合意間近という報道が出ている。
海外移籍の活発化は歓迎すべきだが、日本では2009年にFIFAルールを適用して以降、才能あるタレントが移籍金(違約金)なしで海外移籍するケースが頻発しているのも事実だ。本書を読むとJクラブや日本サッカー界の問題点が浮き彫りになるとともに、サッカービジネスの在り方について考えさせられる。
スペインに拠点を置いて活動してきたサッカージャーナリストの著者は選手を「正当な額で売るべき」と主張する。例として挙げているのが昨年、ガンバ大阪からバイエルン・ミュンヘンに期限付き移籍した宇佐美貴史のケース。推定150万ユーロ(約1億6000万円)の買い取りオプションについて「信じられない安値」と記している。
レアル・マドリーユース出身のMFパブロ・サラビアとの比較が興味深い。彼はスペインの国際トーナメントで宇佐美のいたU-17代表と対戦経験がある。ヘタフェに300万ユーロで移籍したが、「私の目には宇佐美の方がアタッカーとしての能力は上に映っており、移籍金の差額はもどかし」かったという。
'09年以前まで「国内ルール」に保護されてきたJクラブ。
確かにこういった比較材料をクラブ側が情報として持っていれば交渉は違ってくる。ガンバとしては“本人の伸びる環境でやらせてあげたい”との思いが先にあるだろうが、著者が指摘するとおり、移籍をビジネスに変えていかなければ欧州クラブにナメられてしまう一方だ。
まず必要なことは情報の収集。海外クラブとの提携も一つの手ではあるが、クラブのなかに欧州の市場をリサーチさせる「欧州情報担当」を置くだけでも違ってくるはずである。
'09年以前までJクラブは契約期間が満了しても移籍金が発生する「国内ルール」に保護されてきた。そのため主力レベルでの移籍が少なく、フロントは積極的に動かないことに慣れてしまった感がある。
ドルトムント残留問題に揺れる香川真司の例を見ても分かるように欧州では契約期間が1年を切る前に延長交渉に入るのが常識。しかしその感覚は日本に浸透していない。出ていく可能性が1年前に把握できれば、強化にも活かすことができるというもの。海外、国内を問わず、情報を持ってクラブ側が積極的に動き、先手を打つことが求められるわけである。
ただ、一概に“ドライになれ”ということではない。