野球善哉BACK NUMBER
ついに実力を証明した藤浪晋太郎。
大阪桐蔭、2年の雌伏を経ての栄冠。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2012/04/05 12:55
すべての試合で150キロ以上の投球を記録し優勝した選手は藤浪晋太郎が史上初。見事な甲子園デビューを果たした注目の右腕は、とにかく「緊張しました」とコメントした。
実力を全国に証明した藤浪の圧倒的なパフォーマンス。
だが今大会が初の甲子園となった藤浪にとっては、自らの成長ぶりを全国に披露する見事な初舞台となったのではないか。
大会初日に行われた、花巻東・大谷翔平との注目の「ダルビッシュ決戦」で見事勝利した藤浪。だが、そのポテンシャルがもっとも発揮されたのは、2番手で登板した準々決勝の浦和学院戦である。
同点で迎えた7回裏、3連続安打を浴びて、無死満塁という絶体絶命の窮地に、藤浪はベストパフォーマンスを見せた。
圧巻の3者連続三振。
スター誕生の瞬間を目の当たりにする、見事な奪三振ショーだった。
続く準決勝で、藤浪はさらに進化していった。
ダイナミックなフォームから、スライダー、カットボール、チェンジアップ、フォークなど多彩な変化球を持ちつつも、最速153キロのストレートでグイグイ押していくのが藤浪の基本的なスタイルだ。しかし、この試合では違っていた。
相手打者のストレート狙いを上手く外してカーブでカウントを稼ぎ、ストレートを見せ球にしながら、スライダー、チェンジアップを投げる。ストレートにしても力いっぱいに投げるのではなく、緩急やキレの変化をつけながら、投げる。
1失点完投。
「自分にとっても、投手としての引き出しが増えたと思えるピッチングだった」
試合後にそう語った藤浪は、まるで自らの成長ぶりをかみしめているかのようだった。
ダルビッシュと藤浪は、投手として何が異なるのか?
大会前、西谷監督がこんな話をしてくれたことがあった。
「藤浪は“ダルビッシュ”と呼ばれますけど、タイプが全然違いますから。ダルビッシュ君の良さは、アクセルを踏んだり、踏まなかったりの器用さだと思いますが、それは藤浪にはまだない要素なんです。藤浪も器用じゃないわけではないのですが、ダルビッシュ君ほどのものは持っていない。それに、藤浪は荒々しいピッチャーなので、その良さも残したいと思っているんです。ダルビッシュ君のような器用さは、いずれ持ちたい要素ですが……今のうちは荒々しいくらいでもいいのではないかと」
今大会中、監督が言っていた藤浪の荒々しいイメージは、確かに多くの場面で見られた。ただ、浦和学院戦の無死満塁の場面にしても、準決勝のピッチングにしても、彼自身の新境地を見せつけるかのような、見事に成長した投球内容になっていた。
大阪桐蔭・有友茂史部長は言う。
「(浦和学院戦の)無死満塁のあの場面は、三者三振したらすごいピッチャーだ、というのがありますよね。でも、そういう雰囲気を甲子園という舞台が作ってくれたんだと思いますよ。藤浪はそこに上手く乗っかることができたんじゃないでしょうか」