野球善哉BACK NUMBER
ついに実力を証明した藤浪晋太郎。
大阪桐蔭、2年の雌伏を経ての栄冠。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2012/04/05 12:55
すべての試合で150キロ以上の投球を記録し優勝した選手は藤浪晋太郎が史上初。見事な甲子園デビューを果たした注目の右腕は、とにかく「緊張しました」とコメントした。
中学で実力が認められた選手を高校1年から起用する。
高校球界では試合経験を早くから積み重ねることでチームを作り上げていく傾向が強くなってきている。中学時代から実力のある選手を積極的に勧誘して、入学当初からトップチームに入れて早々に場馴れさせる。その経験が大舞台であればある程、より強くその経験が活きることになり、チームを急激に強くできるようになる。昨今の甲子園で勝つチームは、大概こういうチーム作りをしているように見受けられる。
昨年のセンバツ覇者・東海大相模は一昨年の夏の準優勝校で、当時のメンバーがまだ多く在籍していた。まさに、今回の光星学院と同様のケースなのである。
“ここ一番で勝てない”というレッテルを貼られていた藤浪。
一方、私学の強豪校と言われながらも、ここ2年以上甲子園出場を果たせなかったチームには、大阪桐蔭、愛工大名電、近江、高知などがある。
大舞台を経験できない中で、じっくりと根を張り、練習でチーム力を積み上げてきたチーム……という言い方もできるかもしれない。
この中からこの春、見事に勝ち上がってきたのが大阪桐蔭だった。
この2年の大阪桐蔭の歩みは197センチの右腕・藤浪晋太郎とともにあったと言っていい。しかし、その実力は上背ほどに分かりやすく現れていたわけではなかった。
西谷監督は「正直、僕自身、藤浪が公式戦で投げられるのは2年の春くらいからだと思っていましたので。これまでは『ダルビッシュ2世』という名前だけが独り歩きしているような感じだった」と回想する。
実際その戦いぶりでも、甲子園を一歩手前にして跳ね返され続けるような結果が続いていた。しかし、西谷監督は藤浪の才能を諦めず、じっくり育てることを選択し続けた。試合の結果を求めるあまり、起用に焦り、選手を潰すことも無かった。
“ここ一番で勝てないピッチャー”
藤浪にはそんな声もささやかれたが、それは彼の力量以前にチーム全体の課題でもあったのだ。西谷監督は言う。
「藤浪に勝負弱さがあるとか、気が弱いと感じている部分があったら、そう言われるのは仕方のないことなんですけど、実際は、藤浪というよりチーム全体の問題。僕自身が、彼らを甲子園に導いてやれなかった」