プレミアリーグの時間BACK NUMBER
サッカーの試合中の悲劇をどう防ぐ?
プレミア“ムアンバの奇跡”を検証する。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2012/03/31 08:02
ムアンバの無事を願う多くのメッセージが寄せられた。ボルトンのサポーターに限らず、他チームのファンや選手も、ムアンバへの祈りをユニフォームに込めた。
3部リーグやスコットランドでは心疾患での死亡事故も。
結果として、スタジアムには選手専用の救急車、ピッチサイドには救急隊が待機するようになった。試合への帯同が義務付けられたチームドクターとフィジオ(フィジカル・トレーナー)は、蘇生を含む高度な応急処置の研修を終えていることが前提となった。チェフの経験がムアンバの命を救ったと言ってもよいだろう。
当時、チェフの一件で「目を覚まさせてもらった」と会長が言っていたプレミアリーグは、今回の一件も教訓として生かさなければならない。
国内では、3部リーグではあるが、昨年1月にベテラン選手が心不全で他界したばかり。近隣のスコットランドでは、2007年にトップリーグのMFが試合中の心臓発作で命を落としている。セビージャのアントニオ・プエルタが、試合中の心停止が原因で22歳にしてこの世を去ってから、わずか4カ月後の悲報だった。
最悪の事態は回避されたムアンバが、悲劇の中で偶然に恵まれたケースであったことも忘れてはならない。観客の中に循環器の専門医がいたのだ。トッテナム・ファンの専門医は、ピッチに降りて医療スタッフにアドバイスを与え、病院まで付き添っている。しかも、彼の勤務先はムアンバが担ぎ込まれた国内最高レベルの専門病院だった。
マンCのマンチーニ監督は、より精密な心臓検査を提唱。
悲劇の再発を防ぐため、年に2回の心臓検査を提唱しているのは、マンチェスター・シティのロベルト・マンチーニ監督だ。
「“世界最高”のリーグには素晴らしい環境が整っているが、医療面には改善の余地がある。年に一度の検査では不十分。半年に一度は行うべきだ。しかも、より精密な検査を行う必要がある。監督としてイングランドにやってきた2年前から、選手の健康管理には不安を抱いていた」
イタリア人監督が警笛を鳴らしているように、プレミアリーグが所属クラブに義務付けている年次の健康診断では、心臓に関して、心音・心雑音と脈の確認程度しか行われない。より精密な検査は、プロ入り後の早期の実施が推奨されているのみ。育成段階の16歳前後の時点で、協会の資金提供による心電図と心臓エコー検査を受けた後は、間隔が空いてしまう選手が多いとされる。これに対して、専門家からは、異常の兆候が少年時代の検査では発見されない場合もあると指摘されてきた。