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<Number800号特別企画・地域に生きる> 王子イーグルス 「創部86年の老舗クラブと苫小牧」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byKunihiko Katsumata
posted2012/03/22 00:00
アイスホッケー冬の時代、銀座の王子製紙本社では……。
翻って、現在はどうだろう。
岩倉組は昭和54年のシーズンを最後に姿を消した。その母体を引き継いだ雪印も平成13年に廃部となっている。「王子と国土計画の2強」と呼ばれる時代が1980年代に到来し、一時アイスホッケー熱は持ち直したが、やはり西武鉄道も平成に入って憂き目を見た。まさにホッケー選手にとっては冬の時代。氷河期を耐え忍ぶ感がある。
企業スポーツは景気の動向と無関係ではいられない。だが、こんな時代だからこそ、スポーツの魅力で会社を盛り上げる必要もあるのではないか――。ところ変わって銀座の本社ビル、人事部の青木寛介が苦しい胸のうちを語った。
「やれる体力があるうちは文化貢献活動の一環として続けていきたい。今も王子は、アイスホッケーをする子どもたちの憧れですからね。でも正直、会社の中にも賛否はあります」
ただし、と前置きした上で、こう続ける。
「個人的には、あの高揚感は何度でも味わいたい。優勝決定戦になると、やはり会社は盛り上がります。学生時代に神宮や秩父宮で味わったあの感覚。優勝した後に飲むビールがまた……。どっちが目的かわかりませんけど(笑)」
王子イーグルスは、4000の観客席を満員にすることはできるのか?
酒の肴にも、ライバルストーリーは欠かせない。同じ業界の日本製紙クレインズには負けられないぞ。氷上の日韓対決、アニャンハルラとの一戦は気合いが入るぜ。そんなつぶやきの一つひとつがアジアリーグを盛り上げていく。
今季、王子イーグルスは好調だ。レギュラーリーグを首位で突破し、プレイオフも準決勝をスイープで勝ち上がった。ちょうどこの記事が掲載されるNumber800号が発売されるころ、決勝戦は佳境を迎える。
ホームゲームの舞台はもちろん白鳥アリーナ。'07-'08年シーズンにアジアリーグを初制覇して以来、約4000の観客席が満員になったことは1度もない。選手にできることは限られている。言うまでもない、勝つことだ!
小さなスティックをお守り代わりにして、苫小牧のちびっコたちは祈っている。イーグル時代から歌い継がれてきたあの歌が、再び歓喜の輪のなかで口ずさまれることを。(敬称略)