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ベッテルが、20年を経てセナと出会う。
「ブラジルGP2位」への疑問と称賛。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/12/04 08:01
今季最終戦、ブラジルGPの表彰台にて。チームメイトのウェバーから祝福のシャンパンを浴びせられるベッテル
ドライバーズ選手権で4位のウェバーを2位にする戦略?
冷静に考えれば、ベッテルとレッドブルがわざわざこれほど手の込んだ芝居をする理由はなかった。
中には、ドライバーズ選手権で4位にいたウェバーを2位に浮上させるために、レッドブルが仕組んだ戦略だったと言う者もいたが、たとえウェバーが優勝しても、選手権2位でブラジルに乗り込んだバトンがレースで9位以下、3位のアロンソが4位以下に終わらなければ、ウェバーは選手権で逆転2位になれない。スタート直後にバトンとアロンソが3番手と4番手を追走していたことを考えると、レース中盤に順位を入れ替える必要はなかった。
たとえ、その必要があったとしても、今年からレギュレーションでチームオーダーは事実上復活しており、チーム内で順位を操作することは可能だった(正確に表現すれば、2010年までレギュレーションに明記されていた「チームオーダーを禁止する条項」が削除されたことになる)。
ウェバー、バトンがチームオーダーをキッパリと否定した理由。
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それでも、なおレッドブルが合法的にチームオーダーを行ったのではないかと推測する者がいたのは、チームオーダーは今年から認められたといっても、国際競技コードに「F1の名誉を汚すような行動をとれば処分される」という条項が存在するためだった。つまり、レッドブルはこれにも抵触しない形で、万全を期して順位を入れ替えたのではないかというのである。
ところが、その推測はきっぱりと否定される。しかも、否定したのはベッテル本人ではなく、優勝したウェバーであり、ライバルチームで3位でフィニッシュしたバトンだった。まず、ウェバーが口火を切った。
「いつもはあなたの見解に同意するけど、今回はできない。なぜなら、僕は必ずしもセバスチャンだけを見て、レースしているわけではないからね。トラブルを抱えたセバスチャンだけが相手なら、彼を抜いた後、どんどん飛ばして差を広げることも可能だったけど、実際にはほかのライバルたちが異なる戦略でレース後半に巻き返してくるかもしれないから、タイヤをいたわりながらレースしていた。それも考慮に入れないと」
これにバトンが続いた。
「もちろん、僕は部外者だから、一般的なことしかいえないけど、F1ドライバーくらいのレベルになると、状況に応じて自分のドライビングを最適化させることができるんだ。それは何もギアボックストラブルだけの話じゃない。燃料をセーブしろとか、ブレーキを温存しろとか、レースではさまざまな苦境が訪れるんだけど、僕たちはその状況に単に応じるだけでなく、その状況に対応しながら、なおかつペースをできるだけ落とさないテクニックを持っているんだ。だって、そのために大金をもらっているんだからね」