F1ピットストップBACK NUMBER
ハミルトン、アロンソ、可夢偉――。
トンネルを抜け出した3人の男たち。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/11/17 10:30
「このレースではひとつもミスをしなかった。僕の周りで能力に対する疑念が渦巻いているけど、良いパフォーマンスと勝利を見せることができて誇りに思っている」と久しぶりの勝利について語ったハミルトン(右)。「結果には満足している。過去10年間でF1カレンダーに載ったサーキットのすべての表彰台に上がれたからね」と2位でも喜んだアロンソ
いまから4カ月前の初夏のドイツ・ニュルブルクリンクで、彼らは確かに輝いていた。
第10戦ドイツGPを制したのは、マクラーレンのルイス・ハミルトンだった。その時点で6勝を挙げていたチャンピオンシップリーダーのセバスチャン・ベッテルに次いで複数の勝利を挙げていたのは、ハミルトンただ一人。シーズン折り返し点での完勝に、後半戦での巻き返しが期待された。
ところが、ここからハミルトンの歯車が狂い出す。第11戦ハンガリーGPではトップ快走中にスピンを喫し、慌ててスピンターンしたところに後続のクルマと遭遇。危険な行為と判断されてドライブスルー・ペナルティを受ける。
第12戦ベルギーGPではブレーキングで小林可夢偉と接触。第13戦イタリアGPはミハエル・シューマッハの過激なブロックに悩まされ、第14戦シンガポールGPと第15戦日本GP、そして第17戦インドGPではフェリペ・マッサと接触事故を起こした。
「僕を理解してくれる人が必要なんだ」(ハミルトン)
気がつけば、ハミルトンの顔から笑顔が消えていた。
「僕を理解してくれる人が周りにいないんだ。チームやチームメートに不満はない。そうじゃなくて、プライベートな部分で、僕には僕を理解してくれる人が必要なんだ。ジェンソンがうらやましいよ。彼はお父さんがいつもサポートしているし、ガールフレンドも応援してくれる。だから、彼は100%ドライビングに集中できる。でも、僕は周囲の雑音とも戦わなければならないときがある。もちろん、そんなことは僕だけでなく、多かれ少なかれみんなも同じだろうけど、時に僕は自分自身に厳しくする自分とも戦っているときがある。それが問題なんだ」
インドGPでマッサと接触した直後、ハミルトンは無線でこう確認してきた。
「いまの接触は、僕が悪いのか?」
チームはすかさず「君のせいではないと信じている」と返答。7位でチェッカーフラッグを受けた直後に、ハミルトンが「チームは今回も素晴らしい仕事をしてくれた。結果を出せずに、申し訳ない」と無線で謝罪したときも、「謝る必要はないよ、ルイス。接触でペナルティを受けたのはマッサなんだから」とハミルトンをかばった。