セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
取りもどした笑顔。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2005/12/12 00:00
久しぶりに良い試合を観た。12月4日のゲーム。今季13勝を飾ったユベントスに対して、フィオレンティーナは、リーグ戦でのホームゲーム7連勝はならなかったものの、首位を独走する王者と互角の戦いをみせた。
代表クラスの外国人で固められた最強ビアンコネロに、ほぼイタリア人で固めたプランデッリ采配が猛攻を仕掛ける。前半39分、21歳のイタリア人FWパッジーニがあげた同点の1発は、16ゴールをあげ、現在リーグ最多得点者のFWトーニだけがフィオレンティーナの得点力ではないこと、すなわち攻撃力の厚みを立証した。
両者のモチベーションが高かっただけに、内容の濃い試合は4万6千人の大観衆をのみこんだアルテミオ・フランキスタジアムを沸騰させた。
サッカーのスピリットであるフェアープレーに専念した両イレブンの心がけと、サポーターの振る舞いも格別だった。セリエA因縁のカードは、2−1でユベントスの勝利に終わったが、試合終了を告げるホイッスルとともに観客が拍手喝采を送る姿に「これぞセリエAのサッカー」と、翌日のマスコミは絶賛した。
それもそのはず、4日の「本番」を控え、いわば練習試合を兼ねた12月1日のイタリア杯4回戦(フィオレンティーナ−ユベントス戦)は、サポーターの大乱闘が発生し、警察により25本も投下された催涙ガスで28分間も試合が中断されるといった散々な内容だったからだ。
ビオラ(フィオレンティーナの愛称)の根底に流れている「ユベントスには負けられない」精神と、ユベントスの「2流のクラブに負けてたまるか」というプライドが衝突し、流血事件を生んだ。
試合後、カペッロ監督は開口一番「秩序のない人間の行為を容認するのは我慢ならない」と言い、「プレーができるような状況ではなかった。審判員は試合の中止を宣告すべきだった」とフィオレンティーナの指揮官も不満顔を浮かべた。
3日後、再戦の当日、フィレンツェ市民は恐怖感を募らせ、地元警察官に加え、500人以上の機動隊がスタジアムを張り巡らす異様なムードが漂った。そんな中、試合開始直後からフェアープレーに努めた選手たちが、注目の試合を盛り上げた。魅力的なサッカーで、不安を隠せない両サポーターをひきつけたのが印象的だった。スタジアムは活気を取り戻した。
「最高だ。真のサッカーが蘇った」
試合後、スタジアムを後にする誰もが口にした。
悪夢から3日後、同じ場所、同じ顔ぶれで、イタリア国民が待ち焦がれたあるべき姿のセリエAのサッカーが、各々のちょっとした心がけで復活を遂げたのだった。