日本代表、2010年への旅BACK NUMBER
右ウイングで蘇った
矢野貴章の迫力に圧倒された
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byToshiya Kondo
posted2009/04/30 07:00
先のバーレーン戦で9カ月ぶりに日本代表に招集された矢野貴章に、ひと皮むけた感がある。今季のアルビレックス新潟では新システム、4-3-3の右ウイングを任され“ハマリ役”となっているからだ。首位争いに食い込むチームの躍進は、矢野の活躍を抜きには語れないだろう。
アウェーに乗り込んだ4月25日の大宮アルディージャ戦。実際、スタジアムで見た矢野のプレーには迫力を感じた。
右サイドでボールを受け取ると、大きなストライドのドリブルで迷わずゴールに迫っていく。前半29分にはシュートまで持ちこめなかったものの、ドリブルで相手をかわしてペナルティーエリアに侵入。そのさまには“危険な雰囲気”さえあった。ただ、雨でスリッピーな状態ゆえに、チームの武器のひとつであるダイナミックな展開がなく、スペースに飛び出す矢野の特徴が発揮されたとは言い難かった。
ポストプレーより、むしろ速さを武器にウイングを
シュートがゼロに終わったとはいえ、サイドの守備に重点を置かざるを得なかった大宮に対して、十分なストレスを与えていたのは間違いなかった。加えて、サイドバックの位置まで下がるなど、90分間通しての執拗なディフェンスには目を見張るものがあった。
身長185cmの大型ストライカーと聞けば、誰もがポストプレーヤーを想像しやすい。だが、矢野はそのたぐいまれなスピードと、豊富な運動量で勝負するタイプであり、しかもポストプレーなどCFの役割に意識が強かったせいか持ち味を存分に発揮できていない感も強かった。
それが、スピードとドリブルで勝負できるという自身のストロングポイントを前面に押し出せる新しいポジションを得たことで、才能を開花させつつある。前節のサンフレッチェ広島戦において、サイドを駆け上がってからの速いクロスで3点目をアシストしたシーンは鮮やかだったし、横浜F・マリノス戦ではロスタイムにフリースペースに走りこんで、決勝点を挙げてもいる。ウイングの仕事だけにとどまらず、ストライカーとして常にゴールを狙う強い意識を持っていることが分かる。岡田ジャパンの4-2-3-1の、左右どちらかのアウトサイドに矢野を置いてみたら、という夢想がどうしても湧いてきてしまう。
矢野の新境地は日本代表の新境地になるか?
試合後、矢野にウイングについて尋ねると、前向きな答えが返ってきた。
「新しいポジションにはやりがいを感じています。自分の得意な形を、もっと数多く出していきたい。守備もさぼらずにやっていくことが大事ですし、(攻撃では)前の3人でもっと流動的に動けたらいい。流れをみながら判断していきたいと思う」
上背があって速いタイプのFWは、日本にとっては稀有な存在だ。足もとのテクニックはさらなるレベルアップが必要としても、新境地を開く25歳に向けられる期待は、ますます膨らんでいくに違いない。