総合格闘技への誘いBACK NUMBER
総合格闘技と『修斗』。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph bySusumu Nagao
posted2006/02/01 00:00
深夜放送の某格闘技番組を見ていたら、昨年のPRIDEの『ベストバウト・ランキング』なる特集がやっていた。
ヒョードル×ミルコなど好勝負があったなか、第1位に選ばれたのは、時代を感じさせる組み合わせだった。
五味隆典VS.川尻達也──。
昨年の9月に行なわれた、『PRIDE武士道』ライト級トーナメントの1回戦。スリリングな打撃戦を五味が制し、最後は川尻から裸絞めでタップを奪った一戦であるが、ヘビー級勢や同じくグランプリを開催したミドル級勢を差し置いて堂々の1位を獲得したことは、“日本人対決”ということを差し引いても特筆に値する。中量級の人気もしっかりと“核”ができてきたなあ、と思い至ったしだい。
けど、それ以上に感慨深いのは、年末のライト級王座決定戦の五味VS.桜井“マッハ”速人しかり、あるいはHERO'Sで活躍する宇野薫しかり、『修斗』出身の選手、または『修斗』の現役選手がこのムーブメントをリードしているところにある。中量級が注目されなければ、おそらくこんなことはなかったはずだ。
現役世界ウェルター王者の川尻の存在により、盛んにテレビでも名前があがるようになった『修斗』は、'88年にタイガーマスクだった佐山聡が作り上げた『シューティング』が母体となり、その後、他の団体とはあまり交わることなく独自に発展を遂げてきた総合格闘技の老舗団体である。
なにが独自かといえば、他の格闘技団体がトップ選手を中心とした集合離散を繰り返しているあいだ、『修斗』は、まず団体の基盤を安定させることを主眼とし、機構を作り、オフィシャルジムの設立・募集やライセンス制度の導入、世界にネットワークを張るなどハード面の充実を図る。その団体の運営方法は、厳格な組織規定を持つボクシングやサッカー、野球、あるいはオリンピックスポーツを取り仕切る“協会”や“連盟”を参考にしているといってもいいだろう。
さらにPRIDEやK−1との決定的なちがいは、『アマチュア制度』の導入にある。
選手は、公認されたジムに所属し、各地で行なわれるアマチュア大会で結果を出さなければプロライセンスを発行されず、桧舞台へ上がることを許されない。もちろん実績のある外国人選手などはこの例には収まらないが、その後はランキング戦を勝ち抜き地道に王座を目指すということになる。
つまり、海のモノとも山のモノとも分からないポッと出の選手がいきなり『修斗』の舞台に上がることはないのだ。PRIDEなどで、ごくたまに見られる、実力に疑わしい選手や、負けを重ねても人気があるから出場できる選手などが存在しない、ストイックな完全実力主義のリングなのである。
反面、その厳格さが“勝利至上主義”など派手さのない地味な印象を増長することになり、熱狂的なファンはついたものの、いまいち集客に繋がらなかった面もあるにはあった。
が、それももう過去の話になるかもしれない。
川尻は言う。
「僕が『PRIDE武士道』のリングに上がったのは、五味選手と戦いたいという理由もあったけど、『修斗』をもっとメジャーにしたかったから」
来たる2月17日、川尻は『修斗』の舞台で、HERO'Sで宇野を撃破したヨアキム・ハンセンと世界タイトルの防衛戦を行う。
ファンの反応を見ると、『PRIDE武士道』で川尻の戦いを見て、初めて『修斗』に足を運ぶという人も結構いるようで、世界王者の願いは叶いつつありそうだ。ともすれば、メジャー団体の“草刈り場”になってしまうのではないかと危惧されていたが、川尻のような選手が増えてくれれば大丈夫だろう。
さて、川尻の試合であるが、五味戦を打撃の攻防で落としたことから、川尻はあれ以後ボクシングジムへ通い、“クラッシャー”と異名を持つそのパンチングスキルを上げているらしく、成長の見込める非常に楽しみなタイトルマッチだ。その他にも通好みではあるが、見応えのある試合が目白押しときているので、ぜひ注目してほしい。
ルールはPRIDEとほぼ一緒。異なる点は、5分3ラウンドのダウンカウント有り、四点ポジションでの攻撃の禁止とドロー判定があるということだけだ。
観る人にとっての『修斗』の魅力を川尻は次のように語る。
「実力主義ゆえ試合の内容にはもちろん自信はある。あとは、アマチュアがあるので選手の成長を見ながら、感じながら、長いときをかけ観戦できるのも他とはちがう魅力じゃないですかね」
言うまでもなく、アマチュアという底辺があってこそのプロスポーツ。たまには、『将来のチャンピオン』を見きわめにアマ大会を覗くのもいいのではないだろうか。