Jリーグ観察記BACK NUMBER
小野伸二とドゥンガ。
Jリーグを刺激する意外な共通点。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byKYODO/Kazuaki Nishiyama
posted2010/02/01 10:30
ブンデスリーガのボーフムから3年ぶりにJリーグに復帰。記者会見では「30歳、男はこれからだというところを見せたい」と抱負を語った
チームの引き留めを振り切り、移籍を決めた理由。
前回のコラムでは「欧州からJリーグに戻った選手の成功・失敗」をテーマにしながら、あえて今年1月にボーフムから清水に移籍した小野に触れることはなかった。それは小野が2006年にフェイエノールトから浦和レッズに移籍し、欧州→Jリーグというルートを1度経験しているのに加えて、今回はこれまでとは異なる背景があったからだ。
ボーフムのヘアリッヒ監督は、小野を重要な戦力として計算していた。事実、彼の下で小野はボランチのレギュラーを任されていた。だが、今回は小野がプライベートな理由で移籍を熱望したため、チームは仕方なくそれを認めたのである。小野は現地メディアのインタビューに対して「日本に住んでいる子供たちと、ほぼ毎日インターネットで電話していたけれど、会えないのはつらかった」と語っている。
つまり、必要とされなくなったから日本に戻って来たのではなく、必要とされているにもかかわらず、戻って来たのだ。
日本ではW杯のために出場機会を求めて帰ってきたように思われがちだが、それは誤解だ。小野はヘアリッヒ監督の下で、体調不良と出場停止で欠場した2試合を除いて全ての試合に先発出場しており、ボーフムにいても十分出場機会は見込めた。前述のインタビューにおいても、小野は「スポーツ的なことが移籍の理由ではない」と語っている。
ボーフムのファンも、小野が去ったことを惜しんでいる。あるサポーターは、ファンフォーラムのホームページにこう書き込んだ。
「残念。チームで一番のフットボーラーのプレーが見られなくなってしまった。彼がケガをせず、日本で成功することを祈っています」
小野のJ復帰は日本サッカー界に多様性をもたらすか?
小野とドゥンガは全く同じタイプの選手ではないし、何よりキャラクターが違う。ドゥンガのようにケンカ覚悟で相手を叱咤することを、日本人に望むのは酷だろう。
だが、小野には不思議なカリスマ性と、人をひきつける力がある。ブラジル代表の元主将と全く同じスタイルではなくても、彼と同じくらい強烈にまわりを動かすことができれば、独特の感性で試合を支配し、ドゥンガがJリーグに来たときと同じくらいのインパクトをもたらすことが可能なのではないか。
ここ2、3年、日本サッカー全体がやや「走る」という価値観に偏りすぎてしまっているように思う。小野が清水で再び輝けば、日本サッカーの価値観はもっと多様になるのではないだろうか。