レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

ルシェンブルゴの犯した本当のミス。 

text by

木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

PROFILE

photograph byMarcaMedia/AFLO

posted2005/02/28 00:00

ルシェンブルゴの犯した本当のミス。<Number Web> photograph by MarcaMedia/AFLO

 ユベントスの無敗記録が止まった。2月22日、予備予選を含め9試合目で、レアル・マドリーにチャンピオンズリーグで初めての敗戦を喫した。

 レアル・マドリーの連勝記録も途切れたばかりだ。ルシェンブルゴの就任以来国内リーグ7連勝を続けていたが、先週末アスレティック・ビルバオに完敗している。

 無敗も連勝も必ず途切れる。

 番狂わせの多いスポーツ、サッカーならなおさらだ。

 が、こんなサッカー界で“連戦連勝”を続ける集団がある。

 それが、結果論でモノを言い続けるマスコミやクラブのフロントたちだ。

 監督の采配が的中した時は賞賛し、裏目に出れば批判する彼らは決してミスをせず、間違いを犯さない。まるで彼らの言うことを聞いていれば、永遠に勝ち続けるかのようだ。

  当たり前だ。後出しジャンケンで負けるわけがない。

 ユベントス戦のジダンは今季最高のプレーを見せた。

  体が重そうだった最近の姿が嘘のように、トラップでもドリブルでもあの優雅なバレリーナのような動きが戻って来た。“世界最高の選手”という冠に相応しい姿を目にしたのは、1年ぶり、いや、もっと久しぶりのことだ。

 そのジダンとのコンビで再三再四攻撃をしかけ、守ってはデル・ピエロにボールにすら触らせなかったロベルト・カルロスもおそらく今季最高の出来。“ロナウド不在”の状態で、サイドに開いてスペースを創り、中盤に下がってボールを回しに参加し、24分にシュートをクロスバーに当て、73分にはペナルティー(笛は吹かれなかったが)の標的になったラウールも、ここ数カ月で最高のプレーを披露した。

 この3人には共通点がある。

 完敗したビルバオ戦を休んだか、フル出場していないことだ。

 警告累積のロベルト・カルロスはベンチ入りせず、ジダンとラウールはロナウドと並んで「ユベントス戦に備えるため」にスターティングメンバーを外され、後半67分にやっと出場していた。

 ビルバオに敗れ、首位バルセロナとの差が7ポイントに広がったこともあり、このルシェンブルゴ采配はクラブのフロント、ジャーナリズムから批判の雨を浴びた。“チャンピオンズリーグのために国内リーグを犠牲にした”というわけだ。本人も「敗戦は私の責任だ。私がスターティングメンバーを決め、交代をさせたのだから」と認めている。

 しかし、采配は100%間違いだったのだろうか?

 温存されたジダンとラウール、出場停止で図らずとも休養したロベルト・カルロスがユベントス戦で大活躍したことは、判断の一面の正しさを証明することにはならないか?

 監督が勝敗という結果で裁かれるのは仕方がない。プロサッカーの監督とはそういう商売なのだ。

  ビルバオ戦で勝っていれば、ユベントス戦の完勝とあわせ、ルシェンブルゴ采配は絶賛され、“魔術”と持てはやされるだけでなく、“名将”との誉れさえ与えられていたかもしれない。天に昇り、地にまみれるのも、突き詰めれば勝敗次第なのだ。

  が、だからといって、“勝てば絶賛し負ければ批判する”というのでは、あまりに芸がなさ過ぎやしないか。日和見的過ぎやしないか。

 たとえば、私はジダン、ロベルト・カルロスは体力的に下り坂であると思うし、ラウールが昨季からの不調を脱し切れてないことにいささかも疑問を抱いていない。それに、クラブが国内と国外のリーグ戦に参加し、代表がワールドカップ予選や親善試合を戦う過密スケジュールでは、ローテーション制を導入すべきだという持論もある。オーウェン、ソラリ、グティと豪華な控えがいることを考えれば、ラウールらを交代で休ませるのは、むしろ当然だと思っている。

  こんな私が、今回のルシェンブルゴの温存策失敗に対し、手のひらを返して「ベストメンバーで戦うべきだった」と発言したら、それは卑怯というものだろう。

  もっとも、ルシェンブルゴとレアル・マドリーは弁解の余地がない致命的なミスを犯している。ビルバオ戦ではなく、その数日前のことだ。

  それは、結婚式・披露宴まがい(前夫人との離婚が成立しておらず、法的な効力はない)のパーティーをバレンタインデーに執り行うという、ロナウドのお遊びを許可し、あろうことか会長と監督がのこのこと出席までしていることだ。

  “フランスの古城で恋人とロマンチックな一夜を”という、若者(といっても、もう28歳だが)らしい思いつきを否定するつもりはない。

  が、やりたきゃ、夏にやりゃいいだろう。

  なぜ、チャンピオンズリーグも国内リーグも佳境に入るこの時期にやる必要があるのだ。

 案の定、ロナウドは足の指を痛めて帰ってきて練習を欠席、クラブから罰金を課され、ビルバオ戦ではベンチを温めた。ルシェンブルゴによると、スターティングメンバー入りしなかったのは“罰”ではなく、調整不足が理由らしい。ユベントス戦での散々な出来は、体調不良のせいだったのかもしれない。

  いずれにせよ、“2月14日でなきゃ嫌だ”と言った方も、それを許した方もおそろしくプロ意識が欠如している。ビルバオに完敗してもユベントスに快勝しても、その事実は変わらない。

  本当に厳しく批判されるべきなのは、こちらの方ではないか。

海外サッカーの前後の記事

ページトップ