カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:プラハ(チェコ)「大人の街で観た大人のチーム」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2004/05/04 00:00
確かに日本代表はチェコ代表に勝ったけれど、
大騒ぎや過信は禁物。チェコは親善試合に
勝利など求めていない“大人”のチームなのだから。
両者は対照的だった。ハンガリーとチェコ。ともに旧東欧圏に属する国だが、前者は悲しいほど暗く、後者は清々しく明るかった。暗さを100%否定する気はないが、ハンガリーのそれは、どうにも馴染めない。陰鬱で、様々な面が気の毒になるくらい時代から遅れていた。象徴的だったのが、日本対ハンガリーの試合が行われたザラエゲルセクのピッチ。まるで泥田だった。開始前から、戦いのレベルは見えていた。
それを思うとチェコのプラハは天国だ。極端に進んでいるわけでもなければ、極端に遅れているわけでもない。静と動のほどよい感じがたまらなく良い。古いものには歴史が感じられ、新しいものにはドキッとするお洒落さがある。居心地は抜群で、とても豊かな気分になる。日本にはない、大陸的な鷹揚としたムードが味わえる。パリ、ロンドン、ローマそしてベルリン。欧州を代表する首都といえば、この4つが即座に頭を過ぎるが、プラハもそれに比肩する独特の雰囲気と貫禄がある。是非一度、と言いたくなる街だ。
日本対チェコ戦が行われたスパルタ・プラハのスタジアムにも、そのムードはそのまま反映されていた。緊迫感ゼロ。時間は長閑にゆったりと流れていた。観衆は僅か1万1千人。キックオフの時間が平日の4時半だったことも災いしたように思うが、平行して行われていたアイスホッケーの世界選手権に比べると、人々の関心は圧倒的に低かった。チェコ代表のスタメンには、ベストメンバーが顔を揃えたというのにだ。
このスタジアムで、僕が前回観戦したのは、ユーロ2004予選、対オランダ戦だが、この日と半年前の戦いとはスタンドもチェコ代表も全く別の顔だった。選手は母国にくつろぐために帰ってきた。そんな感じさえした。日本に0-1でリードを許し、前半を終えたというのに、後半早々彼らはベストで臨んだスタメンをごっそりチェンジした。
もっとも、それは今日の親善試合では当たり前の光景だ。この日、欧州各地で行われたほとんどの試合も同様だった。何故チェコはリードされているのにもかかわらず、メンバーをごっそり変えたのか。その答えは欧州のあちこちに落ちている。
日本とは異なるノリにあることは確かだ。「それは実際にこっちに住んでみなければ分からないことですね。こっちはまずクラブなんですよ」と、ある海外組の選手の一人は、冷静な口調で僕にそう呟いた。
今日の代表チームには、制約が多い。自ずと親善試合には勝ち負け以外のテーマが求められる。実際、チェコには明確なテーマがあった。それが失敗に終わったまでに過ぎない。決して良いことではないが、それが駄目だと分かったことが収穫だった。これまでの試合を見ていれば、テーマの内容は一目瞭然になるが、片や日本は、勝っただけだ。僕はそう思う。それなりの自信はつかんだと思うけれど、このチェコはオランダ戦のチェコとは別物だ。大騒ぎ、過信は禁物。シンガポール戦から僅か1カ月の間に、日本代表の何かが劇的に変化したとは思えない。ベーシックな部分には変化なしだ。
プラハの街とチェコ代表には、共通の印象を抱くのだった。大人っぽい。ホッとさせられる理由はそこにある。日本もこれからは老人社会。動と静の程よいバランスが求められているんじゃないかと僕は思う。