佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
フロント・ブレーキ
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2007/09/12 00:00
超高速サーキットとして鳴らすモンツァの戦いは、琢磨自身としては手の施しようがないメカニカル・トラブルに見舞われ、序盤に大きくポジションダウン。17位からほとんど最後尾まで転落し、その後追撃にかかったものの時すでに遅し。トップから1周遅れの16位でフィニッシュするしかなかった。
予選アタックは第2シケインで失敗し17位。3戦連続のQ3敗退となったが、そう悲観するほどのポジションでもなく、琢磨自身「レースペースはいいので、きれいなスタートができたらいいレースになる」と希望は捨てていなかった。
オープニングラップは17位で、予選ポジションを守った。ところが、2周目はなんとラルフ、リウッツィ、スーティル、山本左近らに抜かれて20位にドロップ。いったいどうしたのか、モニターTVで観ている限りでは何がなんだか分からない。
事情が判明したのは1時間20分のレースが終わってから。なんと序盤、フロント・ブレーキが利いてなかったのだという。
「スターティング・グリッドでマシンに乗り込んだら、ブレーキペダルがスコスコ。とりあえずフォーメイションラップには出て、無線でエンジニアにブレーキがソフトだということは伝えましたけど、どうしようもできないですよね。要はちゃんとブレーキをクーリングできてなくて、ブレーキ液が沸騰してしまったんですね」
そういえば、スタート直前の佐藤琢磨のマシンから煙が上がっているように見えたが、あれはブレーキ・スモークだったのか!
「もうカチカチ山ですよ(笑)。フロント・ブレーキが火事で凄かった。フロント・ブレーキから煙がモクモク出て来て、スタートライトが見えなかった(笑)」
そんな状態でレースになるわけがない。オープニングラップ、17位で帰って来たのが奇蹟のようなもので、2周目にはフロント・ブレーキが完全にフェード(過熱して利かない)状態。アスカリ・シケインでラルフと争っている時にリヤ・ブレーキがロックして止まり切れず、後続のマシンに次々に抜かれる結果となったのだった。
その直後に事故処理のためのセーフティカーが入り、琢磨は「あのセーフティカーに救われた。ゆっくり走れたのでクーリングダウンできたんです」という。しかし、その時点で20位とあっては、スパイカー勢、リウッツィを抜くくらいが精一杯だった。
それにしても、なぜブレーキ・トラブルが起きたのか。ブレーキ・システムのどこかが壊れたというような問題ではなく、スターティング・グリッドに着く前の冷却が不十分だったことが事実として残っている。チームには悪いが、ヒューマン・エラーの可能性はなかったか。実は決勝日の朝、佐藤琢磨のマシンはギヤボックスをそっくり交換しているが、その作業に追われて、ついブレーキへの対応がおろそかになった……そんなことがなかったともいえまい。
さて、次戦はリニューアルされたスパ-フランコルシャンでのベルギー・グランプリ。もうトラブルは許されない。足をひっぱらないマシンで、存分に戦う佐藤琢磨の姿が久しぶりに見たい。