Column from GermanyBACK NUMBER
ブレーメンの影の主役たち
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byGetty Images/AFLO
posted2007/12/10 00:00
ブレーメンが絶好調である。チャンピオンズリーグではレアル・マドリードを下したことで決勝トーナメント進出の可能性が見えてきた。ブンデスリーガではハンブルガーSVとの北部ダービーを制し、首位と勝点1差の2位につけている。得点源のクローゼが移籍したことから当時、「これで一気にチーム力が弱体化する」と予想していた批評家(私のこと?)は甘いとしか言いようがない(ゴメン、ゴメン)。チームの強化がうまく進んでいるのは、フロントの継続性のある地道な活動のおかげだ。
クローゼの穴を見事に埋めているのは今季移籍してきたサノゴである。あのドログバと同じコートジボワール出身。と言っても代表歴は1回だけ。母国、モロッコ、UAEでプレーし、05年にドイツにやってきた。昨年はHSVで1年間プレーしたが、ここで彼は人生で最大の屈辱を受けた。チームの不振に不満を抱いたファンから試合中、集中してブーイングを浴びせられたのだ。「なぜ、僕だけが?」という気持ちだったという。
知り合いの記者はその原因を、「アフリカ人への反感が根っこにある」と分析している。メンタリティーと気候の著しい違いから、アフリカ人はドイツで問題を起こすことが多い。またドイツ人自身も黒人に対する人種的偏見が強い。そういうことで、本来もっと批判されるべき白人のチームメイトではなく、サノゴに牙が向けられたのだ。この指摘、恐らく“半分は”当たっている。半分としたのは、サノゴが現在、ブレーメンで17試合出場し10ゴールの大活躍を見せているため、ファンも文句の付けようがないからである。
レアル戦でサノゴは前半40分に勝ち越しゴールを、北部ダービーでは先制点を決めた。「移籍は大正解だ。チーム、街、スタジアム、ファン、すべてがHSVより質が高い」と、サノゴは今や“ブレーメン・命”である。だが最近、困った騒動を起こした。11月22日の練習中、怪我をしているサノゴの踝を目がけてカルロス・アルベルトがアタックを仕掛けた。これにサノゴが激怒、スパイクでカルロス・アルベルトの尻を蹴り上げ、大喧嘩に発展してしまったのだ。マスコミに一連の証拠写真まで撮られた。クラブは喧嘩両成敗ということで両者を3日間の謹慎処分にした。24日のコットブス戦のメンバーに名前がなかったのはこのためだ。ただ、サノゴの名誉のためにも言っておきたいが、カルロス・アルベルトの行状は常軌を逸している。チームメイトとのイザコザをこれまで4回も起こしていて、GMから“最後通牒”までもらっているのだから、救いようのない選手とはまさにカルロス・アルベルトのことである。
嫌な話を紹介したので、次はグッドニュースを。
クラスニッチがピッチに復帰した。ご存知の通り、腎臓を移植するしか生き残る道がなかった彼は今年1月、母親の腎臓を貰った。だが拒否反応が出て失敗。3月、今度は父親の腎臓を移植、これが見事に成功した。あれから8カ月、ついに14節のコットブス戦でカムバックを果たしたのである。それも先発として。64分間プレーして交代した際にはアウェーのファンも盛大な拍手を贈った。レアル戦は欠場したが、HSV戦は残り9分で交代出場した。今後も出場が続くことだろう。
腎臓への衝撃が加わらないようにと、クラスニッチは腹部にファイバーグラス製の防御用腹巻をつけてプレーしている。次の目標をたずねられた彼は「クロアチア代表として来年のユーロに出場したい」と宣言して周囲を驚かせた。代表のビリッチ監督は、「ブレーメンでプレーできるようになれば、代表に召集するだろう。背番号17も君のためにとってある。皆が君を待っているぞ」と、泣けるセリフでクラスニッチの闘病生活を支えてきた。いい話じゃないか。泣けてくるぞ。
優秀なフロントがいて有能な選手がいれば、チームは当然強くなる。これに、クラスニッチやサノゴの美談が加われば、チームの精神的一体感がグッと増す。快進撃の裏にある事情を探ると、サッカーの魅力は数倍もアップしてくる。ブレーメンが、力だけで相手を押さえつける旧式のドイツサッカーとおさらばできた事情もこの辺りにあるのだろうか。