ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER
経験の差が制した、中東決戦
text by
木ノ原久美Kumi Kinohara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2004/10/19 00:00
日本が、2006年W杯アジア地区一次予選突破を決めた。
10月13日、日本はマスカットで行われたオマーン戦に1-0で勝利。この予選ラウンド最大のライバルだった相手を直接対決で退け、一試合を残してオマーンとの勝ち点差を6に広げて、二次予選進出を確実にした。
後半8分、FW鈴木隆行がMF中村俊輔の左からのクロスボールにファーポストで合わせて0-0の均衡を破ると、その後最後まで試合の主導権を手放すことなく、試合終了の笛を迎えた。
「選手は、絶対に勝って帰るんだという強い意志を持って試合に臨んでくれた。この勝利をみんなで喜びたい」と、日本代表ジーコ監督は満足気に言った。
日本は引分けでも一次予選突破が決まるが、オマーンが予選突破の望みをつなぐには、日本に勝つしかない。ホームのサポーターの声援を受けて、試合開始早々からオマーンはスピードに乗ったドリブルで、ゴールめがけて攻め上がる。
左ウイングのガイラニがボランチのA・ムハイニと組んで、右ウイングの加地亮を引き出した後のスペースを狙い、FWホスニがおとりになってFWマイアニやMFドゥールービンが顔を出すという、オマーンの得意の攻撃パターンが続いた。後半11分にはホスニのシュートをDF田中誠がゴールライン上でクリアするという、あわやという場面もあったが、全般には、「みんな3度目の対戦なので、相手の特徴は掴んでいた」と田中が言うように、日本選手を慌てさせるには至らなかった。
今年3度目となるオマーンとの対戦は、2月の一次予選第1戦(1-0)と7月のアジアカップ(1-0)の前2戦に比べると、最も危なげない内容だった。
「しっかりディフェンスしてからカウンターへ」という意思統一がきちんとされていて、各選手が自分の役割について頭の中で適確に把握しているという印象を受けた。自信を感じさせるその対応ぶりは、攻め込まれた前半から主導権を握った後半まで、変わることはなかった。かつて漂っていたような、どこかでいつかは集中が切れて自滅してしまうという危うさは、もはや感じられなかった。
特に、鈴木と高原の両FWの献身的で質の高いプレーは、特筆すべきものだろう。
前線でプレスを掛けて、オマーンが得意とするカウンターアタックを簡単に仕掛けることができないように、相手のプレーを遅らせた。鈴木は豊富な運動量で広いエリアをカバーし、相手の執拗なチャージを受けながらボールキープに努め、高原は相手のマークをうまくかわしてスペースへ顔を出し、攻撃の基点を作った。
その彼らと、トップ下の中村と左ボランチの小野伸二がバランスを保ちながらうまく絡み、相手の動きが落ちてきた後半には何回かチャンスを作り、そのうちの1回が得点になった。
ジーコ監督はオマーンとの差を問われて、「フィニッシュと、フィニッシュにもっていける選手の質が相手より勝っているところ」と答え、一方、オマーンのマチャラ監督は、「うちは3点ぐらい取れる試合をしたが、それでも日本が勝ったのは、W杯に出たチームとそうでない我々の差だ」と振り返った。
マチャラ監督が指摘したようにW杯の経験も然りだが、このチームにとっては今夏のアジアカップでの経験がやはり大きかったと言える。DF中澤祐二は「アジアカップで中東勢と戦って、間合いなど相手のプレーがわかったことが大きい」と話した。そして、アジアカップで得た、試合の状況を読んで対応する力とそれを可能にするメンタルタフネス。2月にスタートした一次予選から、アジアカップを経て今回のオマーン戦まで、この間にそれまでの日本代表に欠けていて、求めてもなかなか手にできなかったものが備わった。
第一関門の突破でジーコ監督は肩の荷が少し下りたのか、試合後は笑みを絶やさず、記者団に冗談を言い、当然のことながら、いつになく晴れやかでうれしそうだった。一次予選最終戦のシンガポール戦(11月17日、埼玉スタジアム)では「試したいアイデアがある」と話し、新しい遊びを考えついた子供のように楽しそうに、その構想をほのめかした。どうやら、海外組は使わずに、これまでに試合に使ったことのない選手を中心に起用する予定のようだが、来年の最終予選へ向けて、手持ちのカードを増やすためにはいい試みになるに違いない。
最終戦当日、アジアの一次予選各グループの結果が出揃う。それを受けて、最終予選の組み合わせ抽選会が12月9日に行われる予定だ。一次予選最終日は、日本の新戦力の発掘とともに、ほかのグループの勝ち上がりにも要注意だ。