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ショーグン、シウバを育てた名白楽 

text by

石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph byTakasi Iga

posted2005/08/31 00:00

ショーグン、シウバを育てた名白楽<Number Web> photograph by Takasi Iga

 現在、空前のブームがつづいている格闘技。ここでは、大会を観戦しただけではわからない選手や関係者の素顔、または格闘技をとりまく情勢などを上からの視点ではなく冷静にとらえていく、マニアックになりすぎず、けど痒いところに手が届く、そんな連載にしていきたいと思っています。

 8月28日に行なわれた『PRIDEミドル級GP決勝戦』。優勝者が決まった瞬間、リングサイドに張りついていたカメラマンを強引に引っぺがすように、ある一団がリング上に雪崩れこんだ。痛みに苦悶する受難のカメラマンを尻目にリングはまるでリオのカーニバル。輪の中心にはミドル級GPを制したマウリシオ・ショーグンの姿があり、取り囲むように所属するシュートボクセ・アカデミーの仲間たちが歓喜を爆発させていた。もちろん、準決勝で敗れた兄弟子のヴァンダレイ・シウバの姿もそこにはあった。

 ここ数年、シュートボクセの威勢がいい。ショーグン、シウバはもちろんのこと、体重の軽いクラスをメインにした『武士道シリーズ』においてもダニエル・アカーシオ、ルイス・アゼレードらが活躍している。また、桜庭和志がブラジルのクリチーバにある本部ジムに出稽古に行っていたり、吉田秀彦もシュートボクセのコーチに打撃の手ほどきを受けている。つまり、シュートボクセは現在のPRIDEにとって切っても切れないもっとも重要なアカデミーといっても過言ではないだろう。

 エンドレスと思える喜びがつづくリング上にダンディズムひとり。四十がらみの憂いをもったシブい顔。柔和な笑みをたたえ、愛弟子の優勝を祝福しているその人こそ、シュートボクセの創始者のフジマール・フェデリゴ会長である。

 ブラジルのアカデミーはどこも仲間意識が強いものだが、とくにシュートボクセはその結束が固いといわれている。その秘訣は、選手の誰もが「会長は素晴らしい」と、尊敬をもってやまないフジマール会長の統率力があってこそ。

 「私たちの躍進は、優秀なコーチがあってこそ。そしてメンタル面のケアも大切であり、選手たちは常に勝つためにリングに上がる」

 ポルトガル語でシュートは『蹴る』、ボクセは『ボクシング』。ムエタイをベースにした指導法で、いまやブラジルだけに留まらずヨーロッパ、アメリカ、日本に支部を開き一大ネットワークを築きつつあるシュートボクセではあるが、フジマール会長がジムを開いたのはなんとまだ17歳のとき。12、13歳のころ、足を骨折しリハビリで始めたムエタイに没頭したという。ムエタイでリハビリとは、一大勢力を作り上げた人だけあって、さすが発想がちがう。若きジムオーナーだっただけにさまざまなトラブルにみまわれたというが、道場破りを自ら撃退しジムの知名度を上げた。現在42歳。あれから20年以上もの月日が経過している。

 「選手たちに常に言うのは、ファンが喜ぶファイトをしろということだね」

 たしかにシュートボクセ勢のファイトは魅力的だ。激しく躍動的でいつだってKOを狙っている。10年以上も前からムエタイだけではなく寝技にも取り組んだ、このフジマール会長の“先見の明”こそが時代ニーズに合った総合格闘技の盛隆に繋がっているのだろう。現在のところ技術面に関してはジムの生え抜き選手だったコーチのハファエル・コルデイロに一任し、フジマール会長は選手たちの精神的支柱として絶妙なタクトを振っている。選手たちとフレンドリーに言葉を交わし、日本人の知り合いを見つければ「いつブラジルに来るんだい?」とニコニコと声をかける。ポケットに手を突っ込んだスラックス姿がなぜかとてもよく似合う。

 その反面、ジャッジにミスがあれば激しく抗議し、試合で自分の選手がゴングの鳴ったあとも殴られるといった侮辱行為を受ければ、相手選手に執拗なほど食ってかかる。

 このバランスがカリスマたるゆえんか。個性派のラテン気質をたばね、グッドファイターを輩出する名白楽。今後もフジマール会長率いるシュートボクセから目を離してはならない。

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