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名将デルボスケに導かれるスペイン。
W杯予選を突破し、さらに進化途上。 

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中嶋亨

中嶋亨Toru Nakajima

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photograph byMutsu Kawamori

posted2009/09/11 11:30

名将デルボスケに導かれるスペイン。W杯予選を突破し、さらに進化途上。<Number Web> photograph by Mutsu Kawamori

コンフェデ杯のただひとつの敗戦も、新たな成長の糧に。

 予選グループ最強のライバルと見られていたトルコ戦だけではなく、欧州王者相手に守備を固めた敵や果敢に攻撃を仕掛けてくる敵との対決は全てが簡単なものではなかった。それでも周囲が勝利しか許さない状況の中でそれを実現するために最も効果的な方法を選び抜いてきた結果、デルボスケとスペインは新しい選手、新しいシステムのオプションを手にしていった。

 優勝が期待されながらアメリカに敗れて3位に終わったコンフェデレーションズ杯は、スペインメディアはFIFAランク1位をブラジルに奪われたことを嘆いた。だが、完全に引いた相手に対してトーレスとビジャのツートップが機能しないことが改めて証明されたアメリカ戦をデルボスケは無駄にしなかった。

安易な戦術変更はしない。配置の小さな修正で弱点を克服。

 9月5日、ワールドカップ予選第7節目となったベルギー戦。アメリカ同様に守備を固めたベルギー相手に、デルボスケはトーレスとビジャを揃って起用した。もしも負傷離脱中のイニエスタがいれば、デルボスケはトーレスとビジャのツートップではなく、左右のMFにイニエスタとシルバを起用したかもしれなかった。だが、この日はビジャを左ウィングのように配置し、中央にはトーレス、右にはシルバを入れ、中盤にはチャビ、シャビ・アロンソ、ブスケツを並べて、4-3-3の布陣を敷いた。

 試合序盤からベルギーは自陣の高い位置から互いの距離を崩さない統率の取れた守備を展開した。これに対してスペインは中盤と最終ラインが連係してボールを動かして敵を片方のサイドに引き付けると、ピケ、チャビ、シャビ・アロンソらのロングパスによって逆サイドのスペースで待ち構えるビジャ、シルバへと面白いようにボールを展開し、必死にプレスをかけようとするベルギー守備網を崩壊させた。

 デルボスケはアメリカ戦で機能しなかった前線の二人のどちらかを外すのではなく、配置の仕方と、彼らの活かし方を変えることでアメリカと同じように守備を固めた相手に対してアメリカ戦とは違う展開を生み出した。

スペインのベストメンバーのポテンシャルはいかに?

 試合の度に新しい試みに取り組み、それで結果を出すデルボスケ。手持ちの戦力を巧みに組み合わせ、チームを勝利に導く彼が負傷離脱中のイニエスタの復帰によってベストメンバーを揃えることができるようになったら、どのような組み合わせを生み出すのか。そして、これまで彼が残してきている結果は、その新しい組み合わせがスペインの更なる進化を促すことを期待させる。

 現役時代、レアル・マドリーとスペイン代表の中盤に君臨してチームをコントロールしたデルボスケは、当時のチームメイト達から揃ってこう称えられている。「彼ほど足が遅い選手は見たことがない。だが、彼ほど頭の回転が早く、サッカーを熟知した選手も見たことがない」。

 この言葉が間違いではないことを監督となった今も証明しているデルボスケに導かれ、スペイン史上最強と謳われるメンバーを揃えたスペイン代表はどこまで進化し、ワールドカップ本大会に乗り込んでいくのだろうか。その予想がし難いほどに、デルボスケはアイデアを豊富に持ち、それを選手達に実行させる能力に優れている。

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