セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
変貌する俊輔のFK。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byKazuya Gondo/AFLO
posted2004/06/01 00:00
悲運のシーズンに終わったレッジーナのMF中村俊輔。当初はセリエAの先輩である中田英寿に追いつき、そして追い抜きたいと意気込んでいた俊輔だったが、度重なるケガに悩まされたことも影響し、セリエAの厚い壁に泣かされた。
「足首がガタガタで、腰もヘルニアみたいになった」と、コンディションが完璧な時期がほとんどなかった厳しい一年を振り返る。ヒザ、足首、さらには腰と、様々な箇所に支障をきたしたことで、試合どころか練習すらも満足に行えなかった。痛めた足首は、皮肉にも俊輔の意欲と反比例するように、完治に長い時間を要した。
確かに出場機会は激減したが、それでもセリエAにおける「身の処し方」を習得するには絶好のチャンスだったといえる。ピッチの外に回ったことで、セリエAの特徴を頭にたたき込めた点は大きかった。
セリエAで不可欠なプレーの一つに「見せる」ことが挙げられる。
「人のために走っても評価されるとは限らない。怠けていても、見せたら、その選手が起用されたりする。結局見せたもの勝ちなんだ」
レッジーナのような弱小チームは、スピードがある、パワーがある、思い切った守備ができるなど、単純な要素が過大評価されやすい。レギュラーの座を奪い取るには、チームメートのためばかりを考える献身的なプレーは、ある意味で必要ないのかもしれない。
「オレは人を生かすタイプだけど、むしろ自分を生かしながらレギュラーになることが必要だとわかった」
ピッチ内外から批判の声もささやかれていただけに、悪評をはねのけるためには、どのポジションにおいても人に負けないプレースタイルを確立しなければならないと悟ったわけだ。
「トルシエ時代も、いろいろなポジションでプレーできるのが一流の証といわれたが、結局シンジ(小野)以外は本来のポジションだった」
マリノス時代は決定的なパスを出せるポジションに君臨、相手DFをドリブルで抜いて持ち込むなど、ファンタジスタぶりで台頭したが、来シーズンこそは、その天賦の才でセリエAでものし上がろうとする。
システムに束縛されず、自分にしかできないプレーを見せる。それは、毒舌家のイタリア人記者をも魅了した芸術的なFKの精度を増すことだった。誰にも真似できない俊輔の強力な武器を磨くべく、パワーも加えた新しいキックを完成させるために練習を積んだ。
最終節のレッチェ戦で、1月9日以来のフル出場を果たした俊輔は、新兵器を公式戦で試した。
「スピードのあるボールを蹴りたい。壁を越えてスピードを落とさずコースを狙う」俊輔が理想とする新FKは、2度にわたってお披露目された。
「相手のGKが真ん中に構えていたので遠めに蹴った。狙いすぎたから多少甘かった」。完成度はまだまだだが、「2本目の弾道は良かった」と感触もつかんだ。
度重なるケガのため、いわば棒にふったシーズンだったが、試合感覚が萎えたままで代表の試合に挑むよりは、たとえ最終節だけでもフル出場したことで多少自信を取り戻せたのは幸いだった。「足首も治ったから、今まで我慢していたプレーも自由にできる。気楽にプレーできたのが収穫かな」と前向きな発言も飛び出した。必殺の「木の葉落とし」から「高速の弾道」へとFKの新境地を見出しつつ、俊輔は新たな道を歩み始めた。