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「さあ、行こうぜ!」なんて言えない。
~南アに行くべきか、控えるべきか~ 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2009/08/01 08:00

「さあ、行こうぜ!」なんて言えない。~南アに行くべきか、控えるべきか~<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

現在、南アフリカでは10のスタジアムの建設が急ピッチで進む

 サッカーは戦争だ。ワールドカップは戦争だ。ワールドカップが近づいてくると、誰かがどこかで、必ずこの台詞を持ち出す。

 '70年メキシコ大会予選、エルサルバドルとホンジュラスの一戦を機に、両国が戦争状態に入った例があるからだが、少なくとも僕はそこまでの逼迫したムードを、サッカーを通して実感した経験がない。ワールドカップはむしろ平和の象徴にさえ見える。世界各地からやってきたサポーターが、自国の代表を応援しながら、開催国を旅して回る姿には、微笑ましさを覚える。能天気な行為にさえ見える。たまに、フーリガンが問題を起こしたりするが、それとて平和な姿に見える。それが異常な行動に見える限り平和なのだ。

フーリガンも逃げ出す!? 治安最悪の南ア。

 だが、戦争下では、さすがの彼らも暴れることができない。来年のワールドカップでも難しい気がする。あの治安の悪いヨハネスブルグのダウンタウンを、我が物顔で闊歩するフーリガンの姿は想像できないのだ。彼らとて、思わず逃げ出したくなるに違いない。ワールドカップは戦争だ! とイキがれる環境ではないのだ。サポーターがイキがって歩ける場所。ビールを浴びるほど飲み、大騒ぎできる場所が少ない南アを訪れてみると、サッカーに戦争を当てはめることが、いかに飛躍した話かが実感できる。

 いったいどれほどのサポーターが、来年、南アを訪れるだろうか。喜望峰観光が楽しめるケープタウンや、大自然のなかに動物たちが生息するクルーガー国立公園など、訪れて損がない観光スポットの多い南アだが、サッカー観戦となると話は別だ。観光地化されていない場所を、ファンは好むと好まざるとにかかわらず歩かなければならない。FIFAはそのあたりのことをどう考えているのだろうか。対応が曖昧のような気がして仕方がない。

JFAもサポーターの安全対策を講じるべき。

 繰り返すが、僕はサポーターこそ平和の象徴だと思っている。今年のチャンピオンズリーグ決勝で、バルセロナとマンU両サポーターが、ローマ観光を楽しむ姿を眺めながらつくづくそう思った。それこそがサッカーの魅力だと。そう言ってしまっては、盛り上がるものも盛り上がらないので、戦争だとけしかけ、殺気を煽るわけだけれど、南アワールドカップにはその必要はない。FIFAが曖昧な態度を決め込むなら、日本サッカー協会が明確な態度を示すべきだろう。ベスト4を謳うのはいいが、それをサポートしようと現地まで応援に駆けつける気になっているファンに対して、きちんとした説明が必要だ。

 行くべきか控えるべきか、実際、判断に困っている人は多くいる。いつもの僕なら「さあ、行こうぜ!」と、声を大にしているだろうが、今回ばかりは、誘う気にはならない。現地の気候は冬。どうしようもない暑さのなかで行なわれていたこれまでのワールドカップとは違う。選手は動けるし走れる。質の高い試合が拝めることは間違いない。「さあ、行こうぜ!」と、言いたい気持ちは山々なのだけれど。

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