EURO2004 速報レポートBACK NUMBER
ガムシャラに頑張るオランダ。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byPICS UNITED/AFLO
posted2004/06/27 00:00
ダービッツに代わってDFのハイティンガの投入がアナウンスされると、スタンドからはまずどよめきが、続いて大きなブーイングが起こった。
この時点でオランダは1点リードしているわけでもなく、一方的に攻められているわけでもなかった。後半16分を過ぎて0対0。それなのにアドフォカート監督は、中盤の選手をひとり減らして、DFを投入したのである。
弱気な采配、と取られてもおかしくない決断だった。
アドフォカート監督は、グループリーグのチェコ戦、ウィングのロッベンに代わって守備的MFのボスフェルトを投入して、国中から大きな批判を受けた。交代の結果、オランダはチェコに逆転されて2対3で負けてしまったからである。それなのにまたしても、守備的な交代。オランダ人のサポーターが怒るのも無理はない。
だが、オランダのTVに出演していたクライフは、この交代を全く問題視していなかった。「FWのファンニステルローイと、中盤の間にスペースができてしまったが、全般的に機能していた。何より選手が頑張っていた」
確かにDFがひとり増えたとはいえ、オランダの攻撃が衰えることはなかった。4−3−3のシステムから3−4−3に変更し、延長3分のロッベンのポストに当たったシュートなど何度も惜しいチャンスを演出した。
前線に人数を増やせば、攻撃に専念できる選手が増えることは間違いない。だがそれは、時に前線のスペースを消して、負の効果を引き起こしてしまうこともある。「退場者を出して10人になった方が、攻撃がスムーズになることがあるのは、その逆の例だ」とクライフは説明する。今回の采配は、オランダ的に言えば単純な守備的交代ではないのである(もちろん守備も考慮してのものだが)。
結局、試合はPK戦までもつれてしまったが、オランダはスウェーデンに競り勝った。オランダは4大会連続でPK戦負けという不名誉な記録を回避して、準決勝進出を果たした。
アドフォカートの采配は質実剛健で、オランダのイメージと合うような華やかなものではない。おそらくオランダが今大会で優勝しても、チェコのブルックナー監督やポルトガルのフェリペ監督とは違って“名監督”と呼ばれることはないだろう。でも、タレント揃いのオランダでは、監督は目立たない方がいい。今回のオランダの選手からは、クライフが言うようにガムシャラな“頑張り”が伝わってくる。
今大会のオランダは勝負強いし、何より粘りがある。イタリア的でドイツ的な香りを持つオレンジ。1988年以来のタイトルはもう目の前だ。