EURO2004 速報レポートBACK NUMBER
持てる者が敗れる典型
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byGetty Images/AFLO
posted2004/06/26 00:00
スペイン人、ドイツ人、イングランド人に続いて、今度はフランス人が泣きべそをかく羽目になった。試合が驚くべき結果に終わった後、ジョゼ・アルバラーデ競技場に隣接した地下鉄カンポ・グランデ駅には、目を潤ませながらも準決勝のチケットを売りさばこうと努力する、フランス人の姿があった。あまりにも呆気ない、王者の退場劇だった。
彼らにとって、この大会は惨敗に終わった2002年ワールドカップのリベンジの舞台として位置づけられていたはずだ。だが、一段も二段も戦力が劣るギリシャが勝ち上がってきたことで慢心が生まれたのだろう。グループリーグを勝ち抜いたときの慣らし運転でも勝てると踏んだようで、選手の動きはひどく鈍く、らしからぬミスが続出した。
あれほど簡単にボールを失うジダンなど、そうそうお目にかかれるものではない。アンリはドリブルをさせてもらえず、トレゼゲに至ってはいるのか、いないのかさえわからなかった。
1点を追いかけるフランスは終盤、次々と攻撃の選手を投入して、猛攻に転じたが、ギリシャの堅陣を崩しきれなかった。何もかもが、後の祭りだった。その敗退ぶりは、余裕綽々で臨みながらモナコに返り討ちにされたチャンピオンズリーグでのレアル・マドリーの姿に酷似していた。持てる者が敗れる典型的なケースだった。
それにしても、ギリシャは素晴らしいゲームを披露した。ローマに所属するデラスを最後尾に配した3バックは、トレゼゲ、アンリに影のように寄り添い、ほとんど何もさせなかった。中盤での戦いでも及び腰にはならなかった。しつこくスターたちに絡みつき、ボールを奪っても無闇に蹴飛ばしたりはしない。目の前のライオンたちを恐れることなく丁寧にボールをつなぎ、相手を焦らした。最後にはフランスが根負けし、無用なファウルを犯すようになっていた。
つまらない、という批評もあるかもしれない。だが、勝つために必要なことをやったのは間違いなくギリシャだった。
サッカーの世界で日陰者に甘んじてきたギリシャにとって、それはそれは素晴らしい一日となった。遅々として進んでいない五輪の準備は、この偉大な勝利でまた滞ることになるのだろう。