MLB Column from USABACK NUMBER
半世紀ぶりの「スーパールーキー」登場?
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGettyimages/AFLO
posted2005/08/19 00:00
レギュラーシーズンもあと40試合あまりを残すだけとなったが、規定打席数にとても届きそうにない新人が、ナ・リーグ新人王を獲るのではないかと注目を集めている。
注目のルーキーは、ブレーブスの右翼手、ジェフ・フランコーア(21歳)、アトランタ近郊のパークビル高校卒業後2002年のドラフトで1位指名、プロ入り3年目の今季、7月7日にダブルAから昇格したばかりだ。8月14日まで、わずか28試合にしか出場していないが、打率3割8分2厘、本塁打9、打点26、OPS(出塁率と長打率の和)11割3分9厘と、スーパースター級の成績を残している。
しかも、ただ数字が素晴らしいだけでなく、スター選手だけが持つ勝負「運」の強さも持ち合わせ、ファンに強烈な印象を与えている。たとえば、7月下旬、同率1位で対戦したナショナルズとの首位攻防3連戦、代走で出場した第1戦にサヨナラのホームを踏むと、第2戦は8回裏に決勝の2塁打(ポテンヒットを全力疾走で2塁打とした)、そして第3戦は堂々の2本塁打でナショナルズに引導を渡した。この3連勝の後、ブレーブスはナ・リーグ東地区の首位を快走しているが、フランコーアの「ルーキー・パワー」が勢いづけた首位独走と言っても言い過ぎではないのである。
フランコーアがファンを感嘆させているのは勝負強い打撃だけではない。強肩に物を言わせて、次々と走者を憤死させているのである。補殺数8は、ナ・リーグ外野手中5位にしかすぎないが(リーグ首位は10補殺)、たった28試合での記録であることを考えたとき、その強肩がどんなに比類ないものであるか、容易におわかりいただけるだろう。
ブレーブスの残り試合はあと44、仮に残り全試合に出たとしても出場試合総数は72と、全162試合の半分にも届かない。「シーズンの半分も出場していない選手が新人王になれるのか」というと、これが、実はなれるのである(以下の議論は野手に限るので誤解なきよう)。
まず、第一に、新人王の選出規定では、「出場試合数とか打席数がある数に達していること」は要件とされていない。第二に、過去に出場試合数が極端に少ない選手が新人王に選出された前例がある。1959年にはウィリー・マッコビー(86年殿堂入り)がわずか59試合(初出場は7月30日)の出場で、そして、78年には、ボブ・ホーナー(87年にヤクルトでプレー、「赤鬼フィーバー」を起こした)が89試合だけの出場(初出場は6月16日)で新人王に選出されているのである。
出場試合数が極端に少ないというハンディキャップを背負いながらフル出場した他のライバルを押しのけて新人王に選ばれるには、誰にも文句を言わせない「図抜けた」活躍をすることが必須条件となるのは言うまでもない。「スーパールーキー」として、他のライバルを圧倒する活躍をしなければならないのである。もしフランコーアが新人王に選出された場合、出場試合数が全試合数の半分に満たない野手が新人王に選ばれるのは、マッコビー以来46年ぶりの「快挙」となる。
さて、スーパールーキーのフランコーア、どこにも欠点はないかというと、一つだけとても大きな「欠点」がある。もう104回も打席に立っているというのに、四球が1個もないのである。フランコーアがいつまで無四球記録を続けるか、これもまたファンの関心を集めている。