オシムジャパン試合レビューBACK NUMBER
キリンカップ VS.モンテネグロ
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byTamon Matsuzono
posted2007/06/05 00:00
6月1日、今年3月のペルー戦以来の代表戦となるキリンカップ開幕のモンテネグロ戦で、FW高原は鮮やかなゴールを決めて日本の2−0勝利に貢献し、フランクフルトでのこの1年の好調と充実振りを垣間見せた。
前半38分、2万9千人の静岡エコパスタジアムが一瞬息を呑み、すぐさま大きな歓声に沸いた。
駒野の右サイドからのクロスに、鋭く反応した高原は、大柄でタフな相手ディフェンダーのマークをものともせずにニアポストに走りこんだ。どんピシャのタイミングで捉えられたボールは、そのまま弾丸ヘッダーとなってゴールに突き刺さった。
走りこむタイミングといい、相手をグイっとかわす力強さといい、クロスに合わせた鋭い首の振りといい、「この場面にはこれしかない」というような圧巻プレーで、高原はFWとしての技術の高さと成長ぶりを示した。
「自分のプレースタイルが徐々に(このチームに)浸透していっているのかなと思う」と高原は言った。
その高原の代表通算19得点目のゴールも、しかし、DF駒野のすばらしいクロスがなければ難しかったかもしれない。
この試合、サンフレッチェ広島DFは、右サイドで何度も攻め上がり、中盤や逆サイドからのMF遠藤やMF中村憲剛からのフィードをゴール前へ送り込んでいた。ゴールは、その努力と高原のプレーが噛み合った成果だった。
この1点に見るように、クロスやスルーなどラストパスの精度がもっと上がれば、チャンスはもっと増える。ゴールにつながると予感させるような、「これだ!」と思うようなクロスが、この日の試合では何本あったか。ゴールの生まれる要素として忘れてはならない部分だろう。
しかも、右サイドの駒野に比べて、左サイドの組み立てはどうだったか。先制点になった前半23分のDF中澤のヘディングは、中村憲剛と左ショートコーナーをプレーした遠藤からの良質なクロスだった。だがそれ以外、流れの中であまり効果的なボールは見られなかった。
「最後のラストパスがなかなか合わなかったけど、点を取ったところではいいタイミングでいけた」と、高原は言った。同時に、「もっとチャンスがあったし、ゴール前に詰め寄った場面もあった。きっちりゴールにつなげられるようにしないと。3点目を奪えなかったことが課題」とも話した。
モンテネグロはサッカー協会としての独立が前日、FIFAに正式に認められたばかり。3月に2−1勝利を納めたハンガリーとの親善試合以降、合同練習は7日だけという新生チームに対して、前半は日本が優位に進めることができたが、後半は様子が変わった。
相手チームが選手交代を活用して布陣変更を試みると、日本はスタート時の4バックから3バック、再び4バックへとシフトを変えながら柔軟に対応した。だが、前半ほど試合を掌握して効果的な攻撃を見せることはできず、終盤はバタついた感が否めなかった。
オシム監督はこの点に関して、「選手はよくやった」とする一方で、「個人プレーに走る選手が出てきたことでゲームが壊れた」と、90分間フォア・ザ・チームに徹することができない選手の判断の甘さと未熟さを指摘した。
7月9日にベトナムのハノイでカタールと初戦を迎えるアジアカップを前に、日本のウォームアップ試合は残すところ5日のコロンビア戦のみ。限られた時間の中では、各人が時間を最大限有効に使ってチーム全体の精度を高める必要がある。
これまで国内組中心でチーム作りを進めてきた日本の土台は出来つつある。そこに海外でプレーする選手の高質なエッセンスを加えて、いかに組合せ、磨いていくか。コロンビア戦では、左サイドに中田浩二、ボランチに稲本潤一らが登場しそうだ。彼らが入ることで、チームがどういう変化を見せるのか。興味深いところだ。