MLB Column from USABACK NUMBER
10勝1敗松坂大輔への「文句」の数々
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byREUTERS/AFLO
posted2008/07/17 00:00
松坂大輔が10勝1敗(防御率2.65)と、数字だけ見るとまずまずの成績で前半戦を終えた。松坂本人もこの成績には大満足のようで、前半戦最後の先発(7月13日)でオリオールズを6回無失点に抑えた直後、「今年は波が小さく、チームに勝てるチャンスを持っていけている。内容は昨年よりいい」と胸を張ったという。しかし、5回・6回と浅い回で降板する頻度が多いことについて、松坂が「5回とか6回無失点で、なんか文句ある?という感じ」と言ったと聞いて、私は、心底驚いてしまった。
というのも、当地のファンも解説者も、松坂が長い回持たないことについては「文句がない」どころか、「救援陣に余計な負担をかけすぎる」と、「文句大あり」だからである。しかも、当地のファンは、「9イニング当たり四球数1.64(2006年)と、松坂は抜群のコントロールの持ち主」という前評判を聞かされていただけに、今季のコントロールの悪さ(9イニング当たり四球数5.81はダントツのリーグ最悪)についての苛立ちは強い。松坂が四球を出すたびに、フェンウェイのファンは呆れて大きなため息をついているのだが、「なんか文句ある?」などという科白を言うくらいだから、松坂にはファンのため息はまったく聞こえていないようである。
もっとも、「ため息」の場合は、聞こえなかったり、聞こえたにしてもその意味を重く受け止めなかったりすることもあるだろう。しかし、今季の松坂の投球について、新聞やテレビに出てくる「文句」の数々は、その意味を取り違える余地がないほど明瞭である。以下、「なんか文句ある?」などと言っている場合ではないことを示す実例をいくつか引用しよう。
*7月14日ボストン・グローブ(レッドソックス番エイミリー・ベンジャミン記者)
いい数字を遺しているのに、オールスターに選出されなかったことについて:「成績表ではなく、松坂の先発を1度でも見たことがあれば、オールスターに選ばれなかったことは、ちっとも驚くには当たらない」
前半戦最後の先発を無失点で抑えたことについて:「いつもどおりの醜悪(アグリー)な投球で、四球を連発。いつもどおり、勝ち投手となった」
たった6回で降板したことを皮肉って:「残り3回は救援陣の仕事となったが、オールスターのおかげで、4日も休めるのは何よりだった」
*7月14日プロビデンス・ジャーナル(レッドソックス番ショーン・マクアダム記者)
松坂のせいで、救援陣の負担が増していることについて:「0点に抑えるのはいいが、0点の回をたくさん投げないと意味がないし、救援陣に余計な負荷が加わることは後半戦の不安材料である。松坂の場合、4回途中肩の故障で降板した5月27日の試合を除いても、1試合平均5.6イニングしか投げていない。(中略)…いまは、オールスター休みがあるからいいが、8月・9月になったら、ブルペンに毎試合3イニングを任せなければならない先発投手では困る」
*7月13日NESN(地元スポーツTV局)解説員ルー・メルローニ
「次から次とボールばかり投げる松坂の投球を見ていると、反吐を吐きたくなる。数字はいいかもしれないが、救援陣に任せるイニング数の多さを考えると、『勝ち投手』の名に値しない試合も多い」
松坂に対する文句の手厳しさに日本のファンは驚かれたかも知れないが、文句の要は、
1)四球数・投球数が多すぎる
2)長い回持たないので救援陣に重い負担をかけている
点につきる。マクアダム記者が言うように、いまはまだいいが、「信頼できる投手だけでつなぐ」シーズン終盤・プレーオフとなったら、「点を取られないのだからいいだろう」という松坂の論理はまったく通用しなくなるし、レスター、コロン、バックホルツ、ウェイクフィールド、マスターソンなど、他の投手の調子次第によっては、プレーオフの「四人先発枠」から外される可能性さえ出てくるだろう。
ところで、今季の松坂の投球をここまでもっともよく象徴した試合は、わずか5イニングで8四球と大乱調だったにもかかわらず2安打1失点で勝ち投手になった5月5日の対タイガース戦だったろう。この試合の後、NESN解説員デニス・エッカスリー(2004年殿堂入り)は、「私の場合、1シーズンに8つも四球を出したら恥ずかしいと思ったものだ」と呆れたが、エッカスリーの場合、年平均44セーブを記録した全盛期の1988-92年、年平均四球数が 7.6だったことを思えば「恥ずかしい」という言葉が出てくるのも当然だろう。松坂も、「文句ある?」ではなく、「恥ずかしい」と思わなければいけないはずなのだが……。