Jリーグ観察記BACK NUMBER
サッカーを見る力。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byTomoki Momozono
posted2009/04/01 22:27
筆者はつい最近まで、スポーツライター界の「欧州組」だった。
もちろん選手のようにオファーを受けて欧州に行ったのではなく、チャンスを求めて日本を飛び出しただけで、偉くも、すごくも、稼いでもない。ビザを取れず、限りなく不法滞在に近い時期もあった。そのときはモロッコ系の人を見るたびに、「あいつもビザがないんだろうなぁ」と親近感を覚えたものである。
だが、計6年半という年月を、まずはオランダで、続いてドイツで、一度も病院のお世話にならず、事故にも巻き込まれなかったのだから、運だけは良かったと言えるだろう。深夜のドルトムント駅で警察に尋問されて、冷や汗をかいたことはあったが――。
筆者は今年2月に本帰国して、Jリーグの取材を始めた。プレスルームにソーセージがないのは寂しいが、新しい環境ですごく新鮮な気持ちで取材することができている。
しかし、帰国してから、ひとつだけ残念に思ったことがある。
野球の報道に比べて、サッカーの報道がつまらない、ということだ。
「オマエもそうだろ!」というツッコミが聞こえてきそうだが、話が進まなくなるので筆者のことはひとまず棚に上げてしまおう。
日本のサッカー報道がつまらない理由は、はっきりしている。まだ日本にはサッカーの『見方』が確立されてないからだ。
野球と比べれば、それが明確になる。たとえばプロ野球では、たかが数十秒のキャンプレポートの中にも見所が用意されていて、「この選手はこういうことに取り組んでいる」とか、「こんな目標がある」とか具体的な情報を知ることができる。現場のディレクターが優秀というよりも、日本人のコンセンサスとして『見方』が確立されている。
きっと日本サッカー界にも、見る力を持っている人はたくさんいる。だが、みんなが共有できるほど言語化が進んでいないのだ。
そんなことを考えているとき、ちょうど元日本代表の風間八宏氏にインタビューする機会に恵まれた。昨年筑波大学の監督に就任すると、戦力が限られた国立大にたった1年でインカレ準優勝をもたらした、日本の『名将候補生』のひとりである。取材後、食事をしながら雑談していると、ふとこんな話になった。
『映像記憶能力』について、である。