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うまくいきすぎ、バルサの秘密。 

text by

鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2005/12/26 00:00

うまくいきすぎ、バルサの秘密。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 負けろ、とまではいわないけど、先制点を奪われてもいいんじゃないかと思いたくなるときもある。いまのバルサは強すぎる。また、勝ったか、今日も圧勝か、と。すでにクラブの歴史を塗り替える最多の連勝街道を走っている。けれども、実は昨シーズンよりも勝率は低い。2004−2005シーズンは16試合終了の時点で39ポイント(12勝3分け1敗)と、今シーズンよりも2ポイント上回っていたりもする。

 だからか、どこかケチをつけたくなる。もしこれでチェルシーにチャンピオンズ・リーグで負けたりしたら、大変恥ずかしい。グウの音もでない2位以下の人たちには、もう少しバルサに食いついてもらわないと、困る。そもそも、スペイン・リーグが面白みに欠けてしまう。

 何十試合もやれば、相手も少しは研究する。セビージャ、カディス、セルタと年内最後の3試合では、その成果がうかがえた。例えば、カウンターでバルサの最終ラインの裏を狙うという作戦である。言葉にすると単純なことだけれど、これが決まらない。サビオラもオリもバイアーノも、どのチームのアタッカーも前半の半ばでGKバルデスと1対1の状況まで持ち込んでいる。どの試合も、それから決定機は訪れないのだけれども……。

 バルサのDF、オレゲルのポジショニングは、なかなか憎い演出だ。相手FWについていながら、ボールが出てくるときにヒョイとプジョルの位置までラインをあげる。ひとりだけ、時間差で相手を騙す。セルタ戦では何度もバイアーノをオフサイドの罠にはめた。これが、テクなのかボケなのかは、微妙だけど機能している。縦パスには効き目があり、絶妙な斜めのパスには脆かったりもするのだが、前半のライカールトはベンチから2度ぐらいしか出てこなかったところを見ると、いつも通りだったのだろう。

 ライン捌きが危険と紙一重であっても、黙っていてもゴールが決まっていくのが、いまのバルサだ。後半になると、相手も徐々にヘバってくるから、マイペースで試合を運べばいい。そうできるのも、エジミウソンとデコの守備への貢献度の高さがあるからだ。ロナウジーニョのカバーにはいつもデコがいるし、エジミウソンは常にプジョルの視界から消えない。ふたりとも、危険な匂いのするスペースを埋めている。その嗅覚はすごい。

 ロナウジーニョ、エトー、メッシが、揃って歴史に名を刻むいろんな肩書きをいただいたが、彼らが手にしているトロフィーは守備陣のおかげだった。彼らは何度ミスしてボールを奪われようが、花形としての活躍をすれば、それでいい。バルサのキーポイントとは、守備にある。ライカールトも練習では守備のことばかり口にする。

 「何人かのスペイン人選手の妬みが問題だった。ジダンとベッカムはバンデルレイを支えてくれたけども、スペイン人たちは何もしなかった」

 レアルを解任されたバンデルレイ・ルシェンブルゴ監督の代理人が、ブラジルのラジオ番組でこう語ったというが、バルサにもブラジル人とスペイン人との確執があってもおかしくはない。表面には出てこないだけで、心のなかではレアルとさほど変わらないかもしれない。例えば、2人組のパス練習から夜の遊びにいたるまで、ブラジル人とスペイン人はきっぱりふたつに分かれる。しかし要するにグラウンドではプロフェッショナルなわけだ。決して、仲良し軍団を育んでいるわけではないから。

 そこで、重要なのがライカールトであり、テン・カテやエウゼビオのコーチ陣の存在だろう。エウゼビオは根っからの明るいスペイン人だ。練習グラウンドでは笑顔が弾ける。いつも居残り練習を見届けているのは彼である。引退して数年だから練習ゲームに加わるほど、まだ身体は動く。「選手には厳格でなければならない」といいながらも、「たまには、ジョークのひとつもいって和ませなければならないときもある」という。笑いをとるのも、ひとつの仕事だ、と。強さの裏には、そんな「笑い」が意外と重要な役割を果たしているのかもしれない。

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