カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER
From:東京「健全な盛り上がり方の2006年W杯。」
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byShigeki Sugiyama
posted2005/12/27 00:00
マスコミがお祭りムードを煽った2002年、1998年のW杯。
それに比べて今回は半年後に控えている割には盛り上がりに欠ける。
だが、これは正常。日本の立場が楽観視できないものなのだから。
僕の自宅近くのショッピングエリアは、とても華やいだムードに包まれている。時節柄、当然といえば当然かもしれないが、去年、一昨年より、賑わいは明らかに上。幸せそうな顔をした人も増えている気がする。日本の景気は回復しつつあるのか。
サッカー界は、世の中の不景気風とは裏腹に、右肩上がりの成長を続けてきた。サッカーだけは別。この世の春を謳歌している様子だった。98年W杯、02年W杯を翌年に控えた年末などは、日本代表話で滅茶苦茶盛り上がっていた記憶がある。
いまとなっては、懐かしい限りだ。アジア予選を突破し、W杯の抽選会が終わったというのに、代表サッカー熱がいま巷に溢れかえる様子はない。4年前、8年前の半分にも足りていない気がする。
先日、カフェで横に座った男性3人組のサッカー好きはこうだった。とりあえず、日本代表の「行ける行けない話」で、会話を始めたものの、話題を直ぐにチャンピオンズリーグに切り替え「チェルシー対バルサ話」に花を咲かせた。
「行ける!」とか「勝てる」とか、根拠のない楽観論がこの時期、渦巻いたのが4年前であり、8年前だった。マスコミは、イケイケドンドンとお祭りムードを煽り、ファンも無邪気にそれに乗っかった。しかし、今回ばかりはそうはいかない。マスコミもファンも困惑しているのが現在の姿。下手に楽観論を口走れば、馬鹿にされるのがオチ。日本がマズイ立場に置かれているのは、ブックメーカーのオッズを見れば一目瞭然。それにどう反応すればいいのか。無理を承知ではしゃぐか、地味に行くか。皆が一様に困惑している。とはいえ、いままでに比べれば、ずいぶん正常な気がする。
バブルが崩壊して、社会は健全になった??
いやいや、油断は禁物だ。先日、自宅近くの定食屋に行けば、オヤジさんは「スギヤマさんに、是非聞きたいことがあったんだ」と、早速、質問を浴びせてきた。
いったいどうしてジーコは、カズを日本代表に選ばないんでしょうかね?カズはクラブ世界一選手権に日本人でただ一人出場した選手でしょ?それはコレコレこういう訳なんですよぉーと、カズがシドニーFCの一員として世界一クラブ選手権に出場した僕が知る限りの経緯を話せば、直ぐに溜飲を下げるように納得してくれたのだけれど、その的を得た質問には、感心すること(?)しきりだった。
驚くことに、翌日、コンビニのおばさんも、全く同じ質問を僕に浴びせてきた。
どうしてジーコは?どうしてカズは?
彼女も「そうなんですかぁー」と、直ぐに納得してくれたが、定食屋のオヤジさんと違ったのは、すかさず返してきた次の一言だった。「でも、今回の活躍で、ジーコも考えを変えるんじゃないですか。やっぱりカズは、W杯で見たい選手ですよぉ」ですって。
クラブ世界一選手権の舞台でさえ、カズの姿は見たくなかった……という個人的見解は、もちろん伏せたのだけれど、不思議な気持ちに苛まれたことは事実である。いったい日本はいま、どういうことになっているのか。大丈夫か?この静けさが、不気味にさえ思えてくる。
いっぽう、賑やかな街の方で気になるのは、男性のファッションだ。この時期、女の子は大抵それなりのファッションに身を包んでいる。頑張ってる様子がひしひし伝わってくるが、傍らを歩く男子は、薄汚いダボダボのジーパン姿だ。もう少し格好付けてみろよ。でないと、釣り合いが取れないゼ、女の子が可哀想だゼと、おすぎのファッションチェックではないけれど、僕は思わず注意したくなってしまう。
サッカー界には、もっとバランスが悪いものがある。カズが出場したクラブ世界一選手権は、言い換えると「トヨタカップ」になる。トヨタといえば、日本が世界に誇る優良企業。トヨタなくして世界クラブ選手権は開けなかったわけだが、意地の悪い僕は、トヨタといえば、世界一クラブ選手権よりまず、名古屋グランパスを連想してしまう。そして名古屋グランパスの成績は、惨憺たるモノ(Jリーグ14位)だった。クラブの予算と成績の釣り合いがもっとも取れていないクラブ。世界クラブ選手権に出場しなくてはならないチームは横浜でも磐田でもない。名古屋グランパスに他ならない。まさに、ホストクラブであるべき存在なのだ。トヨタは世界一クラブ選手権をスポンサードするのも良いけれど、ならば同時に、名古屋グランパスの尻も叩かなければならない。ベンゲルが采配を振るっていたかつてが懐かしい。当時の貯金を全て使い果たし、大赤字に転じているダメクラブ。トヨタはあんなに儲かっているのにだ。
最近、川淵サンがベンゲルに会い、ドイツW杯以降の代表監督を打診したというニュースを耳にした。詳しい話はいざしらず、先は急ぐべきではないというのが僕の意見。ジーコが日本代表の監督に内定したのは、2002年W杯決勝のわずか3日後だった。トルシエジャパンの反省をする前に、次を急いでしまった。そして今回も、その気配が漂う?急いでどうする。バブルは崩壊したんだゼ。
その狭間で、日本のサッカーは揺れている。日本代表話そっちのけで、チェルシー対バルサ話に興じる一方で、カズの代表入りを待望する人もいる。スタンダードが見つかりにくい混沌とした2005年の師走である。