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笑いながら殴る人。 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph bySusumu Nagao

posted2008/05/13 00:00

笑いながら殴る人。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

 かつて、俳優の竹中直人が若手時代“笑いながら怒る人”というシュールな芸をやって一躍人気を博したことがあったが、先日行われた『DREAM.3』に“笑いながら殴る人”なるファイターが登場した。

 “笑いながら怒る人”も不気味であったが、“笑いながら殴る人”はそれに輪をかけて相当に面妖である。猟奇的というのか、サイコやフリークスの匂いがする。けど、なぜだか気になって目が離せない。

 その選手の名は、ジェイソン・“メイヘム”・ミラー。日本初登場となる彼は、27歳のアメリカ人。身長185cm・体重84kg、長い四肢が印象的なスッとしたファイターである。

 『DREAM.3』では、ミドル級グランプリの1回戦でプロレスラーの柴田勝頼と対戦したわけだが、入場時から様子がおかしかった。まず、リズム感をほとんど感じさせないズンドコなダンスで入場してくると、常に目の玉をひんむいたような表情をしており、佇まいから不思議ちゃん。

 そして肝心なファイトだが、これが見てくれからは予想できないかなりの実力派。長いリーチを活かした打撃は伸びて重く、寝技になればポジショニングが良く常に優位な体制をキープする周到さが見てとれる。澱みのない洗練されたMMA技術をもっているようだ。

 試合は、ミラーがトップポジションをキープしパウンドを打ちつづけ、抗う柴田を一度も立ち上がらせることなく完勝した。途中、組み合っているのに会場にVサインを示したり、パウンド中にニヤけている姿がモニターにアップになるとどよめく会場。なぜ試合中も笑顔なのかといえば、本人いわく「幸せな仕事をしている。だから私は笑っているのだ」とのことだ。

 そして最後はリング上でマイクパフォーマンス。

 「ワタシハ、アクマ! ワタシハ、バケモノ! ワタシハ、スーパースターニナル!」

 ドッと湧く観衆。筆者は最後の「スーパースターニナル!」を「スーパーサルニナル!」と聞きまちがえて、「とんでもないアホだ」と笑っていたのだが、それはどーでもいい話し。

 この手のモンスター路線はHERO'S(K−1)の十八番だが、体格やルックスばかり派手で実力が伴わない選手が多かった。しかし、ミラーは本物だ。ダン・ヘンダーソンなどが所属する名門チーム・クエストで技術を磨き、かつてはあのデニス・カーンからも勝利を奪っている。UFCにも参戦経験があり、スーパーブロウルやアイコンといった規模は大きくはないが実力者の集まる団体で確実な地位を固めている下地のしっかりとした選手なのだ。

 その薄ら笑いする表情はまるで江頭2:50。アスリート然とした薄味の選手が多くなっている中で、彼は異物であるかもしれないが、そのキャラクターは非常に面白く、見るに値する選手だといえるだろう。

 さて、DREAMもスタートし2ヶ月が経ち、3興行が終了した。最初はどのように熱が生まれ、どこへベクトルが向かうのか懸念したものだが、3回終わり、徐々にだが“うねり”が生まれつつあるようだ。

 セミのエディ・アルバレスVS.ヨアキム・ハンセンでは、立ってよし寝てよしのスリリングな好戦に、波打つようなスタンディングオベイション。日本人が試合に出ていなくてもいい勝負さえしてくれれば観客はきちんと反応する。DREAMに来ていたお客さんは、おそらくは旧PRIDEファンだと思うのだが、そのオーディエンスの目利きは日本の格闘技界の質の高さを物語っている。

 それからライト級戦線において、ベテランの宇野薫が、久々に“怖さ”を見せつけ石田光洋からバックチョークを奪い一本勝ち。これで石田の盟友である川尻達也が宇野に対戦を表明するなど、日本人好みのストーリーが生まれ、DREAMという舞台がようやく実体を持ち始めているかのような印象を持った。加えてミラーやアルバレスといったPRIDEでもない、HERO'Sでもない選手の台頭は、DREAM色を濃くするためにもいいことなのではないだろうか。

 これからもDREAM、あるいは戦極は、PRIDEと比較されつづけるだろう。この新興のイベントがPRIDEを超えるのはまだ先かもしれないが、確実に歩み始め独自の姿を形成しつつあることはまちがいない。この時期にしか感じられない仄かな雰囲気や熱があるので、ぜひ会場に足を運んで観戦してもらいたい。

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